祖父は庭木や盆栽が好きでした。もう30年ほど前に亡くなっていますが、この時期になるとそのときの様子をよく思い出します

 

実家のある十日町市は新潟の中でも、雪深いところです。晩秋の雪囲いはたいへんな作業ですが、この地域の風物詩となっています。当時の私は、愛でるものとしての植物にそれほど興味はありませんでした。どちらかというと、遊びの素材でした。いま思えば、いろんな悪さをしていました。でも雪囲いだけは自分なりに手伝っていた記憶があります。祖父が亡くなった後、庭木はすべて撤去され、除雪がしやすくなるようにコンクリート舗装にされました。

 

今年の6月頃、知人の紹介で解体予定だという住宅にうかがいました。新潟市郊外の閑静な住宅街。庭木もすべて撤去して更地にするとのことでした。染料になるなら好きなだけ切って持っていっていいと言ってくださいました。最初にハサミを入れたのがサツキでした。祖父の庭にも咲いていました。失われていく祖父の庭に何もしてあげられなかった当時の切なさが、ここに重なりました。シルクのストールにて、淡い黄茶色と濃い鼠色が染まりました。

 

星名康弘/植物染め 浜五

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている