植物染めは、なかなか同じ色を出せないところがその魅力のひとつでもあり、楽しいところですが、この紫蘇はとにかく不安定。同じ量を処理しても近い色にならないこともしばしばです。「この黄緑色を狙って」というよりも「今回はどんな黄緑色に染められるかな」と、毎回新鮮な気持ちで臨むことができます。

 

また、「これは紫蘇で染めました」というと、ほとんどの方は「ああ、青紫蘇ね」と返してきますが、「じつはこの色は赤紫蘇からなんです」と答えたときに、おどろく顔を見るのも秘かな楽しみです。煮出した液は赤黒い色をしていて、染色の際にアルカリと反応させて黄緑色に染め上げます。

 

煮出し中に漂う紫蘇独特のカドのない爽やかで仄かに甘い香りに頭も心も和らぎ、紫蘇染めをより楽しいものにしてくれます。

 

田中雄士/紙工房 泉

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている