家の庭に、食べられる実のなる木を増やしていきたいね。そんなことをたまに家族で話しています。いまあるのは梅、柿、無花果(イチジク)。これから植えてみたいものの一つに、桃があります。

 

桃はここ数年、染料としても染め試していました。私の工房から一時間ほどの新潟県加茂市に「いりえ栄蔵果樹園」さんがあります。いつも春先になると、剪定枝とその剪定枝の灰をいただいています。桃の剪定枝を細かく刻んで、寸胴鍋でコトコト煮出していると、しだいに杏仁豆腐やアマレット(酒)が思い出されるような香りがしてきます。以前調べてみたときには、その香りを出す同じ成分が含まれているようなことが書いてありました。杏子、桃、梅、アーモンドは近い種なのだそうです。
 

桃の剪定枝を煮出した染液に布を浸し、十分に色素を吸わせます。少しくすんだような黄緑がかったその布を、染液と同じ桃の剪定枝の灰から作った灰汁の媒染液に浸すと色が変わり、ほんのりとした赤みを帯びるのです。まるで未成熟な実が熟していくような色変わりに驚かされます。その灰みのかかった薄桃色は、落ち着いた印象の中にも華やかさを感じます。鮮やかで華やかな桃の花の色とは対照的な表情を見せてくれます。

 

星名康弘/植物染め 浜五

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている