あと数日で正月を迎えようという時季なのに、晴れ間も多く、例年に比べて寒さもまだまだ緩いようです。私は新潟県内でも雪深いところの一つ、十日町市で生まれ育ちました。そこに比べると、同じ新潟県内でも、いま住んでいる新潟市の越前浜という集落は、驚くほど雪が少ないです。

 

この越前浜集落を歩いていると、多くの家の庭にシュロを見かけます。雪が少ないから育ちやすいのか、流行った時期でもあるのかなどなど、いろいろ想像しています。小さな椰子の木のような姿、夏にはそれほど違和感を感じないのですが、冬にはいると一転します。南国を彷彿させるその姿が、曇天で寒風にさらされている様子や、樹幹に雪が降り積もった様子などは、なんとも不思議なものです。

 

私の住む家の庭にも何本かあります。家族で、葉でハエ叩きを作ったり、樹皮でミニほうきを作ったりしたことはありますが、染料として試したのはこの秋が初めてです。鉄と反応させて染め上あがったのは、緑色っぽさのある灰色。あるいは、くすみ白(しら)んだ黄緑色のようでもあります。日本の伝統色名で例えると柳茶。アルミや灰汁と反応させて、黄系の色も出ましたが、淡く柔らかい印象の色でした。シュロの見た目からはだいぶ控えめな感じもしますが、まだまだ違った印象の色を引き出せそうな気もしているので、これからも付き合っていきたいと思います。

 

星名康弘/植物染め 浜五

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている