季節はもうじき春から初夏へ移ろいますね。春の花として水仙や連翹などの黄色い花が、初夏の花としては桐や藤などの紫色の花が目につきます。なかでも、山野や庭先に咲き誇る藤の花はとても見ごたえがあります。
 

私が自分で採ってきた植物染料のうち、はじめて黄色を染めたのが藤でした。それまでは鼠色や薄茶色、生成り色などがほとんどでしたので、染め上がりの驚きと喜びはいまも忘れられません。眩しいくらい鮮やかな檸檬(れもん)色でした。それ以来よく染めています。この、染め上がりの色は、じつは初回でご紹介したネムノキとほとんど同じ色です。
 

藤は染料として葉を使います。山野では群生していることがほとんどですので、一度にたくさん手に入ります。とはいえ、持ち帰ったその多量の藤の葉は、2日内くらいをメドに染めるようにしています。私の染め方では、刈り取ってから数日経ったものを使うと染め上がりが生成り色なのです。この藤の葉染めの檸檬色は、きっと葉の鮮度が大切なのだろうって思っています。
 

星名康弘/植物染め 浜五

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている