ボダイジュ(菩提樹)をはじめて見たのは10年ほど前。文化財の仕事の関係で東大寺にいっていた時のことです。そのときには、ただただ「これが菩提樹という木なのか」としみじみ眺めていたのを覚えています。それから9年を経て、新潟県立植物園にあるオオバボダイジュ(大葉菩提樹)を染めさせていただく機会を得ました。

 

そのときに植物園の倉重副園長から説明を受け、インド、中国、日本へと仏教が伝わる過程で、ちがう植物が菩提樹の名を受け継いできたことを初めて知りました。オオバボダイジュは、お釈迦様が悟りを開いたボダイジュとはちがう植物でしたが、その枝葉を採るとき、そして染めるときには、ボダイジュに対する仏教徒の思いに触れている気がしました。

 

染まった色は、橙色がかかった桃色。少し黄色がかった淡い紅色とも表現されます。江戸時代には曙(あけぼの)色や、東雲(しののめ)色とも呼ばれ、朝焼けの空に浮かぶ雲の色に例えられていたそうです。
 

星名康弘/植物染め 浜五

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている