秋も深まり、周りの木々も色づいてきました。工房から眺める紅葉化粧の弥彦山(やひこやま)は、極彩色の絵画のようです。 さて、今回は楮(コウゾ)。一般にはあまり馴染みのない植物ですが、和紙の世界では主要原料のひとつとして育てられており、全国の和紙産地で見ることができます。

 

その楮、紙の原料としては皮の部分(靭皮繊維)を使いますが、染めには葉を使用します。葉を煮出して抽出した黄色に、白い原料を浸けて染色するのですが「楮にコウゾで色を着けるなんて」と、つい可笑しくてクスリとしてしまいます。染め上がりの色は、まるで蒸かしたサツマイモのような黄色。食欲をそそる秋らしい和紙になりました。同じ植物から染料になる部位があるのに、今まで楮で染めた紙を見たことがないのが不思議なところです。

 

不思議といえば、染色中のホカホカであたたかい楮からはほんのりと蒸かしたサツマイモのような香りが・・・。紙をつくる工程で、刈取った楮は皮を剥ぐときに幹から剥がしやすくするために蒸すのですが、その時にも同じく、サツマイモを蒸かしたような美味しそうな匂いが周りを包みます。

 

コウゾとサツマイモ。この両者に何某かの縁を、勝手に感じております。

 

田中雄士/紙工房 泉

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている