新潟では、もう雪を迎えました。工房近くの海辺の海岸林では下草が枯れ、木々の葉もだいぶ落ちたこの時季に、ひときわ目につく赤い実。ガマズミです。初夏の白花と緑葉、初秋の赤実と緑葉、初冬の赤実と雪化粧。どの様子も色合わせがきれいで好きな植物です。

 

染料としては、赤系の色を染めるときに使います。「あの赤い実で染めているのですか? 」と尋ねられることもありますが、枝と葉を使います。赤とはいっても、とても柔らかい印象の色。日本の色名で例えると「薄紅(うすべに)」「退紅(あらぞめ)」が近いです。

 

赤を染める染料植物としてよく知られて流通しているのは、セイヨウアカネ、インドアカネ、スオウ、ベニバナがあります。また、植物ではないのですが、ウチワサボテンに寄生するコチニールカイガラムシも、ウールを染めるときによく使われています。それらは使う量を加減することで、いずれも濃色から淡色まで幅広く染めることができ、その濃さで別の色のように感じるくらい印象も違ってきます。でも、このガマズミはある程度の目安の量からいくら増やしても、それほど濃くはならないのです。そして濃淡はあっても、受ける印象はほとんど変わらないように思えます。 

 

私は、このガマズミで染め上がる色に、母性のような優しさと気品を感じるのです。

 

星名康弘/植物染め 浜五

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている