年も改まり、私の仕事初めは、越後一の宮「彌彦神社」へ初詣に行くことから始まりました。この正月も今年一年の願いや決意を胸に、多数の参拝者が神社へお参りに来ていて、御札をいただく人、御神籤(おみくじ)をひく人などで大変賑やかな境内でした。その境内のあちらこちらで樹木(サカキやヒサカキ)に結んである御神籤が見受けられましたが、本来は持ち帰り、ときどき見返して心の指針とするとよいと云われております。樹木の保護のためにも本来のありかたがもっと浸透すれば・・・と思いながら帰途につきました。

 

さて、ヒサカキ。 染料として使う部位は“実”です。11月の下旬頃から濃紺に色付いた5mm程の実を採取します。 一見、固そうに見える実ですが意外と潰れやすく、素手で丁寧に摘んでいくので1日に採れる量もそう多くありません。 また、採取中に色々な鳥が実を食べにやってくるので、こちらもうかうかしていられません。 悴んだ手をフル回転させて負けずに採取していきます。 鳥たちと競って採取したヒサカキの実からいただいた色は、ほんのりと緑がかった薄い青。日本の和色では「浅葱色」に近いです。

 

古来より人と神との境の木とも神々が宿る木とも云われているサカキやヒサカキ。 雪化粧をした植物達の中でも、凛としたその姿は生命力に満ち溢れていて、とても神々しく目に映ります。 和紙に移った淡い浅葱色は、凛々しいヒサカキが纏う空気の色に見えてなりません。

 

田中雄士/紙工房 泉

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている