古くから染料として使用されている日本茜は、是非染色に使いたいと以前から思っていた植物。日本中の山地や野原のいたるところに普通に見られるといわれていますが、いざ探すとなると数多の植物の中から見つけ出すことが出来ず、知人からいただいた僅かな日本茜の株を工房前の畑に植えてその成長を見守るだけでした。植えた株は特に手入れをしなくてもスクスクと育ち、3年も経つと纏まった数の茜染めの和紙が漉けそうなくらいに繁殖しました。

 

収穫して染めてみようかなと思っていた矢先、運転中に信号待ちで何気なく外を眺めてビックリ。日本茜は工房から数分の道端に自生していたのです。太陽の光を浴びて堂々と繁殖している姿を見て、思わず感嘆とも驚嘆とも分からない声が出てきました。山でノリウツギやガンピを見つけることが出来るようになった時も思いましたが、今回も改めて「見慣れる」ことの重要性を再認識しました。

 

早速自生の日本茜を採取。流水に晒して泥を洗い流し、赤やオレンジ色の根から染料を抽出しました。明礬を媒染として染め上がった色は、温もりのある曙色。茜色とはなりませんでしたが、植物染めらしい柔らかい色になりました。深い赤を出すには米粥に浸けて黄色味を抽出させてから洗い流し染色するようです。こちらは次回試してみようと思います。

 

西に沈む夕日のような茜色は綺麗ですが、東からの夜明け空のような曙色も、劣らず素敵な色。日本茜染めの和紙をつくり終えて、冷えた秋の夜明け空も心なしか暖かく感じられる今日この頃です。

 

田中雄士/紙工房 泉

 

「植物図鑑」のはじまり

わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

プロフィール

星名康弘
星名康弘(ほしなやすひろ)/植物染め 浜五新潟県十日町市生。
文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
田中雄士
田中雄士(たなかたけし)/紙工房 泉紙漉き職人。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている