夏に向かっていくこれからの季節、染め体験会が多くなってきます。野外活動の一つとして、植物採取から始めるような体験もあるのですが、小さなお子さん向けには火を使わずに短い時間で鮮やかな色が染まる紅花染めが好評です。
染料として使える植物はたくさんありますが、紅花は染めるための下ごしらえや手順がほかのものとはかなり異なります。まず花びらを水で揉んで黄の色素を抜きます。この黄色い液は使わないので流してしまいます。次にアルカリ性にした液の中で揉んで赤の色素をとります。この赤の色素を含んだ液は、この段階では褐色です。
布をその褐色の液に浸し、赤い色素を吸わせていきます。この時にはまだまだ仕上がりの色は想像できません。しっかりとその色素を吸わせたら、酸性の液に浸します。すると、さっきまでの褐色がみるみるうちに鮮やかなピンク色に変わっていきます。
その色は、濃さによってだいぶ印象が変わります。淡いものは桃色、もう少し濃くなると赤紫色。はっとするような鮮やかさにひかれます。体験ではおよそこの辺りまでの色で終わりにしています。そこから、さらにさらに色を重ねていくと韓紅(からくれない)、濃紅(こいくれない)へと移っていきます。その頃にはもうピンクから赤へと変わって、どこかしら艶(あで)やかさを感じる深い赤となっていきます。
星名康弘/植物染め 浜五
わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている
- ◯第1回
- 鮮やかな檸檬色 -- ネムノキ
- ◯第2回
- 柔和な黄緑色 -- シソ
- ◯第3回
- 混じりっけのない素鼠色--クリ
- ◯第4回
- 蒸かしたサツマイモのような黄色--コウゾ
- ◯第5回
- 母性の薄紅色--ガマズミ
- ◯第6回
- 凛とした浅葱色--ヒサカキ
- ◯第7回
- 柔らかな光を感じる黄金色--イチゴ
- ◯第8回
- 朝焼けのような桜色--カスミザクラ
- ◯第9回
- 鮮やかな檸檬色、再び--フジ
- ◯第10回
- 力感溢れる冴えた墨色--モミジバフウ
- ◯第11回
- 澄んだ黒--サルスベリ
- ◯第12回
- 夏空を思わせる浅縹色--タデアイ
- ◯第13回
- 渋めの黄緑色--サワフタギ
- ◯第14回
- ハチミツのような淡めの黄色--ノリウツギ
- ◯第15回
- 淡い黄茶色と濃い鼠色--サツキ
- ◯第16回
- 控え目な檸檬色--キンカン
- ◯第17回
- 灰みの薄桃色--モモ
- ◯第18回
- 柔らか味のある薄鼠色--タラノキ
- ◯第19回
- 橙色がかかった桃色--オオバボダイジュ
- ◯第20回
- 落ち着いた洒落柿色--シャクナゲ
- ◯第21回
- 秋の日差しのような香色--イチジク
- ◯第22回
- 清澄な翡翠色--クサギ
- ◯第23回
- くすみ白(しら)んだ黄緑色--シュロ
- ◯第24回
- 赤みのさした薄茶色--ハス
- ◯第25回
- 鮮やかな赤紫色--ベニバナ
- ◯第26回
- 温もりのある曙色--日本茜
- ◯第27回
- 赤みのある明るめの褐色--アボカド
- ◯第28回
- 明るいタンポポ色--ヨモギ