すっかり秋ですね。実家からは新米が届き、植物色図鑑の相方でもある和紙職人の田中さんからは、松茸や通草(あけび)をいただきました。そんな秋の味覚にちなんで、今回の染料植物は「栗」。枝葉のほか、毬(いが)も使います。「実はいらないので毬だけください」と言うと、よく驚かれます。
私は栗で素鼠(すねず)を染めます。ここでいう「素(す)」は、鼠色に他の色があまり混じっていないという意味です。淡いときは銀鼠(ぎんねず)、濃いときは墨色になります。
ちなみに鼠系統の色を染められる植物はたくさんあり、染め上がりの色もそれぞれです。日本の色名をみてみると、濃淡の区別以外にも赤、青、黄、緑、茶、紫などの色の混じり具合で細かく呼び分けています。例えば桜鼠(さくらねず)は赤系、藤鼠(ふじねず)は紫系、利休鼠(りきゅうねず)は緑系など。「鼠色はとってもカラフル!」と言うと少しいぶかられたりもしますが、それぞれで見るとわかりにくい微妙な違いも、並べて見ると一目瞭然。個性が際立ってきます。そんなさまざまな鼠色があるなか、この栗で染めた素鼠の混じりっけのなさには、どこか清らかさ、爽やかさを感じてしまうのです。
星名康弘/植物染め 浜五
わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている
- ◯第1回
- 鮮やかな檸檬色 -- ネムノキ
- ◯第2回
- 柔和な黄緑色 -- シソ
- ◯第3回
- 混じりっけのない素鼠色--クリ
- ◯第4回
- 蒸かしたサツマイモのような黄色--コウゾ
- ◯第5回
- 母性の薄紅色--ガマズミ
- ◯第6回
- 凛とした浅葱色--ヒサカキ
- ◯第7回
- 柔らかな光を感じる黄金色--イチゴ
- ◯第8回
- 朝焼けのような桜色--カスミザクラ
- ◯第9回
- 鮮やかな檸檬色、再び--フジ
- ◯第10回
- 力感溢れる冴えた墨色--モミジバフウ
- ◯第11回
- 澄んだ黒--サルスベリ
- ◯第12回
- 夏空を思わせる浅縹色--タデアイ
- ◯第13回
- 渋めの黄緑色--サワフタギ
- ◯第14回
- ハチミツのような淡めの黄色--ノリウツギ
- ◯第15回
- 淡い黄茶色と濃い鼠色--サツキ
- ◯第16回
- 控え目な檸檬色--キンカン
- ◯第17回
- 灰みの薄桃色--モモ
- ◯第18回
- 柔らか味のある薄鼠色--タラノキ
- ◯第19回
- 橙色がかかった桃色--オオバボダイジュ
- ◯第20回
- 落ち着いた洒落柿色--シャクナゲ
- ◯第21回
- 秋の日差しのような香色--イチジク
- ◯第22回
- 清澄な翡翠色--クサギ
- ◯第23回
- くすみ白(しら)んだ黄緑色--シュロ
- ◯第24回
- 赤みのさした薄茶色--ハス
- ◯第25回
- 鮮やかな赤紫色--ベニバナ
- ◯第26回
- 温もりのある曙色--日本茜
- ◯第27回
- 赤みのある明るめの褐色--アボカド
- ◯第28回
- 明るいタンポポ色--ヨモギ