ここ最近はすっかり暖かくなりました。
山の麓にある工房から平野を眺めると、水を入れ代掻きを終えた田んぼが太陽の光を反射してキラキラと光っているのを見ることができます。工房のまわりでも畑を耕しに来ている方も多く見かけるようになり、日に日に緑が増えてきて活気に満ち溢れています。畑は斜面に作られていて小さな畑ばかりですが、中にひとつ面白い畑もあります。それが今回染料をいただいたタラノキ畑なのです。
タラノキといえばタラの芽、新芽を収穫し天ぷらとして食べますが、こちらのタラノキ畑の新芽達はいつまで経っても収穫されません。折角の美味しそうな新芽がグングン伸び、背丈も人間より高くなってもそのまま。タラノキの手入れは全くされず、気が付いた時には下草が刈られている位でした。不思議な畑だなと思いながら春が過ぎ夏が過ぎ、秋になった頃にようやく下草刈りに来ている畑の持ち主に会って話を聞くことが出来ました。 そこで、この畑はタラの芽を収穫する畑ではないことや、大きく育った木を細かく伐って別の場所でたらの芽を栽培していることを教えてくれました。その際に、わき芽で出て来た余分な木を伐採時にいただける約束も出来て、私にとってうれしい収穫となりました。
その余分な木から染料を取り出し、染色して漉いたものが今回の薄鼠(うすねず)色。鉄媒染で染めました。無数の棘がある木を慎重に細断して煮出し染色したのですが、冴えた感じと云うよりはどちらかというと柔らか味のある色になりました。棘の鋭い木の幹というよりは、花に近い柔らかな雰囲気が色に現われているように思います。
田中雄士/紙工房 泉
わたしたちは、植物の色に魅せられ、紙、糸、布などを染めている二つの工房です。植物で染めるということ。そこにある大切なこと、見過ごしてきたことをていねいに拾い上げていくために、染料となる植物の図鑑をつくりたい。見て頂いた方とのコミュニケーションをとりながら、新しい発見もしながら、制作を進めていきたい。そんな思いから立ち上げたプロジェクトです。
■監修:新潟県立植物園 倉重祐二

文化財建造物の修復の仕事を経て、染色の道に進む。 新潟市の海辺の集落に工房を構え、暮らしの品々を植物で染めている。
福井県越前市での修業の後、故郷・新潟県弥彦村に工房を開く。素材のもつ個性を大切に、一枚一枚丁寧な紙つくりを行なっている
- ◯第1回
- 鮮やかな檸檬色 -- ネムノキ
- ◯第2回
- 柔和な黄緑色 -- シソ
- ◯第3回
- 混じりっけのない素鼠色--クリ
- ◯第4回
- 蒸かしたサツマイモのような黄色--コウゾ
- ◯第5回
- 母性の薄紅色--ガマズミ
- ◯第6回
- 凛とした浅葱色--ヒサカキ
- ◯第7回
- 柔らかな光を感じる黄金色--イチゴ
- ◯第8回
- 朝焼けのような桜色--カスミザクラ
- ◯第9回
- 鮮やかな檸檬色、再び--フジ
- ◯第10回
- 力感溢れる冴えた墨色--モミジバフウ
- ◯第11回
- 澄んだ黒--サルスベリ
- ◯第12回
- 夏空を思わせる浅縹色--タデアイ
- ◯第13回
- 渋めの黄緑色--サワフタギ
- ◯第14回
- ハチミツのような淡めの黄色--ノリウツギ
- ◯第15回
- 淡い黄茶色と濃い鼠色--サツキ
- ◯第16回
- 控え目な檸檬色--キンカン
- ◯第17回
- 灰みの薄桃色--モモ
- ◯第18回
- 柔らか味のある薄鼠色--タラノキ
- ◯第19回
- 橙色がかかった桃色--オオバボダイジュ
- ◯第20回
- 落ち着いた洒落柿色--シャクナゲ
- ◯第21回
- 秋の日差しのような香色--イチジク
- ◯第22回
- 清澄な翡翠色--クサギ
- ◯第23回
- くすみ白(しら)んだ黄緑色--シュロ
- ◯第24回
- 赤みのさした薄茶色--ハス
- ◯第25回
- 鮮やかな赤紫色--ベニバナ
- ◯第26回
- 温もりのある曙色--日本茜
- ◯第27回
- 赤みのある明るめの褐色--アボカド
- ◯第28回
- 明るいタンポポ色--ヨモギ