安西水丸さんの文章もイラストレーションも、郷愁にみちている。それが、人のこころを誘うのだろう。たとえば、〈遠い遠い思い出になった。〉と書きながら、小学校時代を過ごした千葉県千倉の夏をこんなふうに書く。
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〈お盆がすぎると、庭でコオロギが鳴きはじめる。夜風が心もち涼しさを増し、海では土用波が立った。海女笛 (海面に出た海女の息をつぐ音が笛のように鳴ることをいう )の音が波間に哀しく響く。 ぼくの少年時代の夏である。〉
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このほか、 灯台のある場所に憧れて / 井の頭にあった家 / 台所の話あれこれ / 囲炉裏端の思い出 / 草茫々の庭が好きだ / ファンタスティックな村で / 駄菓子屋でのささやかな幸 / ぼくは和風の中で育った…… など、68篇。2000年から2014年まで『チルチンびと』連載の傑作エッセイ。定価(本体1800円+税)。好評発売中。なお、この “ 広場 ”のギャラリーで、発売にちなんで、イラストレーション展を開催中。こちらから、どうぞ。