七十二候・第六十五候
麋角解(さわしかのつのおつる)

長手盆:松崎修作 白磁豆鉢:宮田竜司作

12月26日~12月30日頃

うつわの用途を広げてみる

ごはんをよそううつわであれば「飯碗」、味噌汁を注ぐうつわであれば「汁椀」というように、うつわには、本来の用途や形状によってそれぞれ名前がつけられています。
ただ、これは便宜上、そう名付けられただけだと考えてよいかもしれません。
僕の周囲には、深めの飯碗を抹茶碗として使っている人もいるし、ワインを飲むときに、漆の汁椀をナッツボウルとして使っている人もいます。
茶人たちの世界では、モノを本来の姿ではなく、別のモノとして見る「見立て」というモノの見方があり、徳利を花器として使ったり、舶来の素朴な雑器を茶碗として使ったり、うつわを本来の用途から外れた別の使い方で楽しむことがあるそう。
こうしたうつわ使いの楽しみ方のエッセンスは、お茶を嗜まない人が活用することも可能だと思います。

折しも、お正月を迎える頃合い。
昔のように大人数でおせち料理をつつくこともあるでしょうが、今は、ひとりやふたりの少人数でハレの時間を楽しむ場面も多いでしょう。
そんなときには重箱を使わずに「見立て」というお茶事のアイデアを拝借しつつ、そのとき食べる分だけを盛りつけて楽しんでみるのもよいかもしれません。

画像の朱塗り盆は、この間、漆芸家・松崎修さんの個展で一目ぼれしたもの。この形状であれば、お盆(トレー)として使うのが常道だけれど、お皿(プレート)に見立てて直にお料理を盛るのもアリかな、などと思って手に入れました。
たとえば、茶懐石の八寸のような盛りつけ方をイメージしながら、自分なりのアレンジを施して。そうすれば、おせちを盛るのにふさわしいお皿が見当たらない…… というときにも、ハイブリッドなうつわ使いが楽しめるのでは。

漆器のような伝統工芸的な意味合いが強いうつわだと、決まり事の通りに使わなくては…… という気持ちになりがちですが、うつわが使う人をしばるのではなく、使う人が主観でうつわを使いこなすのはとても大事なことだと思います。
しきたりや決まり事などはちょっと脇に置いておいて、各々のライフスタイルに合わせて自分のやり方で自由に使うこと。その際に「見立て」というモノの見方のエッセンスを活用すれば、さらにうつわ使いが楽しくなるはずです。

(長手盆:松崎修作 白磁豆鉢:宮田竜司作)