七十二候・第十六候
葭始生(あしはじめてしょうず)

窯変輪花皿:紀窯作

4/20~4/24頃

なじみ感のあるうつわとともに

食に関するわれわれの感覚は案外と保守的だといえるでしょう。
ファッションであれば数年で流行ががらりと変わるし、建築物でさえ数十年単位で様式が変容していきますが、食に対する舌の感覚(味覚)はそう短期間に変わるものではないように思えます。
であれば、日常で使われるべきやきものは、そういった食の保守的な一面を考慮に入れた上で揃えてみるとよいかもしれません。

僕はかつて、シャープな造形や斬新な釉色のうつわを集めていた時期があるのですが、暮らしも精神も落ち着いてきた今は、『なじみ感のあるうつわ』をヘビーユースするようになりました。
ふだん家で作っている冴えない料理とのバランスが、そういう選択をさせるのだと思います。
『なじみ感』というのは漠然とした言い回しかもしれませんが、これは、骨董のうつわがまとっているようなたたずまいのこと。存在感がありつつも場に溶け込む力を持つうつわに惹かれてしまうのです。

画像のうつわは、17世紀頃にデルフト(オランダ)で制作された輪花鉢をモチーフにした日本の作家のもの。
かつてデルフトで作られていたのは白釉作品ですが、こちらは黒土で成形して黒釉を掛け、焼成時に表面を変化させています。(窯変)。
日本の陶芸界では、先人たちのうつわを『本歌(ほんが)』として模範とすることがありますが(これを『写し』と呼びます)、ただの模倣に終わることなく、土や釉薬にアレンジを加えれば、過去の美意識を新しい時代の美意識に読み替えて再生産することができるはずだし、昨今、実際にそういったアプローチで制作と向き合う作り手も多く見られるようになりました。
それは、日本や東洋の骨董に関してだけではなく、デルフトのような西洋骨董に関しても当てはまると思います。

今日は、そこはかとなく古色を湛える輪花鉢に、ふきのとうの天ぷらを盛って。
黒褐色の艶やかな釉肌が、里山から届いた食材を引き立ててくれて、まるでうつわの中から春の香りが匂い立ってくるかのよう。
月日を経たかのようななじみ感を宿したうつわは、日々の食卓を心地よいものに変えてくれるのではないでしょうか。

(窯変輪花皿:紀窯作)