七十二候・第三十一候
温風至(あつかぜいたる)

コハルアン 温風至 リム付きのうつわ ラタトゥイユ

7月7日~7月11日頃

夏の色を額縁に入れて

今年は梅雨が早く明け、既に各地で猛暑の日々が続いています。

一日仕事を終えて帰るとぐったりして、夕食を作る気持ちが萎えてしまうこともありますが、そんなときは冷蔵庫に作り置きの常備菜があると便利。僕の場合、夏の定番はなんといってもラタトゥイユです。
その響きの通り、おフランスの郷土料理なので、なんだか敷居が高い感じも漂いますが、夏野菜を炒めてトマトとハーブを加えて煮込むだけのごった煮だから、調理時のストレスはまったくなし。
冷たくしてパンと一緒に食べてもおいしいし、ちょっと濃いめの味付けにすれば、焼いた肉の付け合わせとして、またはパスタのソースとして――そのときの気分次第で食べ方を変えられるところがミソ。食べる人が勝手に決まりごとを作ってよい自由なお料理だと思います。

ただ、このラタトゥイユ、できたときはそこそこきれいな色合いですが、冷蔵庫で保存して2~3日後に食べようと取り出すと、野菜たちがくたくたになって、(味はよいのだけれど)残念な見た目になってしまいがち。そんなときは、上手なうつわ使いでその残念感を払拭してみたいものです。

「器は料理の着物」とはかの魯山人の名言ですが、僕はその言葉の現代的なアレンジ版として、「うつわは料理の額縁ですよ」という表現をよく使います。
そんな例えにぴったりのうつわをあげるとすれば、やはり、リム(お皿の縁のこと)が付いたお皿ということになるでしょうか。
ある程度の幅を持つリムは、フレームとしての機能を果たしてくれるので、テーブルとお料理の間にきっちりとした境界線を作ってくれます。お料理はその内側にお行儀よくまとまるので、額縁の中の絵のように、ほどよくおしゃれな盛りつけになるわけです。

とはいえ、ひとつだけ注意しておきたいことが――。
リム付きのうつわが素敵であることは間違いないのですが、リムが付いているということはデコラティブなうつわであるということです。このことを意識せずに多用しすぎると、うつわの『圧』が強くなりすぎて、逆にお料理の存在感を削いでしまう結果にもなりかねません。
何事もやりすぎには注意、ということでしょうね。シンプルなうつわたちとあわせて使ってこそ、リム付きのうつわの利点が活かせるように思います。ぜひバランス感覚を大事にしたうつわ使いを楽しんでみてください。

 

(八角リム皿:阿部慎太朗作)