七十二候・第二十二候
蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

5月21日~5月25日頃

 

ハレとケのバランス

 

ハレとケのバランス

この連載では、「五感を駆使しながら、自然のサイクル=季節のうつろいを感じるうつわ使いをしてみましょう」という話をしてきました。
このことは、胃を満たすための「食事の時間」だけではなく、心を満たすための「嗜好の時間」にも当てはまると思います。

その「嗜好の時間」のひとつがお茶の時間であり、お茶と切っても切り離せないのが和菓子です。
和菓子の世界には、練切(ねりきり)という美しい細工の上生菓子があり、視覚の面から季節が感じられるよう、色や造形に細やかな職人の技が注ぎ込まれます。
正式なお茶会では縁高などの菓子器に盛られて上客から回され、それを各自懐紙に取ってゆく上生菓子ですが、親しい人同士の席であれば、もっとカジュアルなスタイルで茶菓の時間を楽しんでみてもよいと思います。

この間、近所にある和菓子店でカーネーションの花を象ったかわいい練切を見つけました。
カーネーションといえば「母の日」という印象ですが、その旬の時期はもう少し幅が広く、4~6月。俳句の世界では夏の季語に分類されていて、まさに時宜にかなったモチーフだといえるでしょう。
上生菓子というと、漆塗りの椿皿や艶やかな絵付け皿などのゴージャスなものを合わせたくなる方も多いかと思いますが、こんなあでやかな練切であれば、逆に、思いきりシンプルな日常のうつわを合わせる、という手もアリ。

ここでは、黒いつやけしの銘々皿を使ってみました。
このうつわは「炭化焼成(たんかしょうせい)」という技法で作られたもので、焼成時にうつわの表面に木炭や籾殻の炭素を付着させることで、落ち着いた黒色に仕上げています。
練切は「ハレ(非日常)」の空気をもつ菓子なので、こういった地に足着いた印象の「ケ(日常)」のうつわを使えば、そこには絶妙のバランスが生まれ、茶菓の時間をカジュアルかつおしゃれに楽しめると思います。

前近代であれば、ハレの日にはハレの料理をハレのうつわに盛り、ケの日にはケの料理をケのうつわに盛る―というように、ハレの時間とケの時間は、しっかりと二分されていたと思います。
ただ、現代は、このふたつの時間の境目が溶け出した時代です。もし、うつわ使いに「センス」や「現代性」というものが必要であるとすれば、日常と非日常をうまくミックスするバランス感覚こそが、そのポイントになってくるのではないでしょうか。

(炭化小皿:フルカワゲンゴ 作)