七十二候・第六十八候
水泉動(しみずあたたかをふくむ)

1月10日~1月14日頃

 

黒いうつわのこと

 

黒いうつわのこと

2022年はじめてのコラムとなります。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて新年早々、ワタクシゴトで恐縮ですが、昨年末、はじめての単著「季節やシーンを楽しむ 日々のうつわ使い」(翔泳社刊)を上梓しました。
この仕事に就いて22年の間に、諸先輩方から教えてもらった基礎知識(いわゆる耳学問)や自分自身の経験から得たうつわ使いのコツを中心に内容を構成。ただし、しきたりやお作法について解説する教科書ではなく、肩肘張らずにうつわを楽しく使うための“目で見るヒント集”として制作しました。

タイトルに入れたのは“季節”というワード。
たとえば、ちょっと気の利いた和食店に行くと、季節ごとにうつわを替えてお客の目を楽しませてくれるもので、日本の食文化と季節感は切っても切れない関係にあります。とは言え、家庭の食卓で、季節ごとにうつわを替えて……というのはあまり現実的ではありません。
大事なのは、手持ちのうつわをいかに上手く使い回して季節の食材を楽しむか―ということなのだと思います。

季節感といえば、ちょうど今時分のスーパーに行くと、山積みになった菜の花が目にとまります。
冬の食材で食卓が満たされるなか、お吸い物などの汁物やパスタなど洋風の献立に菜の花をあしらってみるのもオツかもしれません。でも、その持ち味であるほろ苦さをダイレクトに感じたいなら、やはりさっと湯がいておひたしにするのが一番ではないでしょうか。
その際に盛るうつわですが、あでやかに発色した茎と葉の緑、そして蕾の黄色—そんな季節の色をシンプルに楽しむには、黒い色のうつわを使ってみるのがよいと思います。

今回は春を先取りした菜の花を盛りつけましたが、夏にはあでやかな太陽の恵みを、秋には大地の実りを―。黒いうつわは、それぞれのシーンで季節の食材の魅力を引き出してくれるはず。文字通り“黒子”として食材という主役を引き立ててくれる存在です。
限られたうつわで季節を楽しむ工夫をするのも、うつわ好きの腕の見せ所。黒いうつわを上手に活用して旬の食材の色と味を楽しんでみましょう。まずは年明けの食卓から。