七十二候・第十九候
蛙始鳴(かわずはじめてなく)

5月5日~5月9日頃

 

夏の衣替え

 

夏の衣替え

21世紀になってこのかた、地球温暖化のせいでしょうか、年を追うごとに夏の訪れが早くなっているように感じます。
昭和の頃であれば、夏の衣替えのタイミングは梅雨に入る少し前あたりがちょうどよかったのでしょうが、現在はゴールデンウィーク前から、半袖シャツ一枚で過ごせるくらいの暑い日が増え、衣替えについてももう少し前倒ししなければいけないようになってきました。

気温がぐっと上がってきて、フィジカルな部分で夏の兆しを感じ取ったら、視覚や触覚(てざわり)などの五感的な部分を駆使して、食卓での衣替えも楽しむように心がけてみたいものです。
その際、オーソドックスなやり方ではありますが、清涼感のあるガラスのうつわを意識的に多用してみるのもひとつの手でしょう。
ただ、収納のことなどを含めた諸事情を鑑みれば、うつわは洋服のように気軽に買い替えが利かないアイテム。涼しげに見えるからと言って、夏だけのためにガラスのうつわばかり無尽蔵に集めることはできません。
そう考えると、枚数を揃える必要のない、酒器のような「嗜好のうつわ」で小さな衣替えを実践してみるのが現実的。
暑い日の宵にしつらえるガラスの片口やぐいのみは、われわれの心に一服の涼感を与えてくれること請け合いです。

もしお酒を厳密な意味合いで味わいたい(テイスティングしたい)のであれば、緻密な人間工学に基づいて作られたソムリエグラスのような製品を使うのが合理的でしょう。
ですが、日常の「飲む」とか「食べる」とかいった行為の中で、味覚のあれこれを数値化する(採点する)ことには少なからず違和感をおぼえざるを得ません。なぜなら、日々の食卓で「味わうという行為」を決定付けるのは「情緒」という数値化できない要素だからです。この「情緒」に大きな影響を与えているのが「季節感」という変数であり、うつわは、それらをまるごと包み込むために存在しているといえるでしょう。

人間が持つ五感-そのなかでも特に、目と手で感じる感覚を育みながら、季節のうつろいを自分の内に取り込んでみる。そのことによって、暮らしの中に自然との同期が生まれ、日々、心すこやかに過ごせるようになると思います。
うつわは、飲むための道具、食べるための道具でありながら、単なるツールにとどまらず、「料理の着物」(by 北大路魯山人)と言ってもよい存在です。背のびして頑張る必要はないので、無理のない範囲で、自分らしくカスタマイズした夏の衣替えを楽しんでみましょう。

(ガラス酒器:小林裕之・希 作)