4/25~4/29頃
少しだけ背の高い器とともに
野菜が好きなので、ふだんは畑の恵みで四季の移ろいを認識することが多いのですが、海の幸もまた季節の変化を知ることができる食材です。
この時季に日本の沿岸にやってくる春の使者を『春告魚(はるつげうお)』と呼びますが、世界有数の漁場である日本の沿岸には、さまざまな魚たちがやってくるため、地域によって春告魚も異なります。
西日本であれば、魚へんに春と書くサワラを筆頭に、サヨリやカツオが有名。また、北海道ではニシン、山形ではサクラマス、もうちょっと広い海域で獲れる魚だと、メバルがこれにあたるでしょうか。
そして、深い海底を持つことで知られる富山湾で春告魚と言えば、ホタルイカ。早春から晩春にかけて産卵のために浅瀬に押し寄せる彼らは、海面近くで神秘的な青い光を放つのだとか。
この時季に鮮魚店などで手に入るボイルしたホタルイカは、先人たちが楽しんできた通り、(ありきたりではあるけれど)ネギや生姜を添えてシンプルに酢味噌で食べるのがオツかもしれませんね。
そんな旬のごちそうには、高めの脚を持つ器がぴったり。
古代の祭祀器などを見てもわかりますが、高い脚を設けた造形には特別な意味が込められているものです。
背を高くして器体を地面から浮かせると、そこには捧げもの的なスペシャル感が生まれるわけで、それが使う人の気分を盛り上げてくれることになるのだと思います。
今回、盛りつけに使ったのは、有田の染付(青い絵付の器)。
有田町内で採れる泉山陶石を粉砕した釉薬を使っているため、呉須絵具の青は落ち着いた色調に発色。ボイルしたホタルイカのつややかな紅色を際立たせてくれる渋い青味が特徴です。
どこか古色を感じさせる高い脚の器とともに、イカのワタの滋味を味わいながら日本酒をキュッと一杯…… なんて、この季節だけに許された贅沢ではないでしょうか。
(泉山釉 染付高台皿:横田翔太郎作)