6/5~6/9頃
梅雨の心に沁みる青
しっとりした青い色が印象的な白岩焼の器は、どの季節に使っても素敵だと思いますが、雨の季節になると、特に使いたくなってしまいます。
深く発色した海鼠釉(なまこゆう)の青が、湿った空気の中で、さらに奥行きを増すように感じられるからでしょうか。
白岩焼というのは、武家屋敷で有名な秋田県仙北市角館の白岩地区で制作されるやきもの。
この地区は、江戸時代の後期に開かれた窯業地で、かつては藩の庇護のもと、日用品から茶器までさまざまな器を生産していて、かなりのにぎわいを見せていたといいます。
明治になり、天災や社会の変容などの影響を受けて一時は廃絶するも、昭和30年代、民藝運動の巨匠・濱田庄司の助言を得て、渡邊敏明さんすなおさん夫妻の手で復興されました。
二人は和兵衛窯を開窯し、伝統の胎土と釉薬について研究を重ねながら、民藝という概念にとらわれず、造形にシャープさを加えた、現代的な器を制作するように。現在は、二代目の葵さんの手が加わり、制作のバリエーションも増えています。
きょうは、葵さんの手になる丼を選び、ベトナムのご当地麺であるフォーを盛ってみました。
丼としての用途を満たすための深さをきちんと持たせながらも、口縁を反らせ、スタイリッシュな印象に仕上げた器に、透き通ったスープ、平たい米麺、パクチーを。
口の中には先にさわやかな香りが広がりますが、後からじんわり沁みてくるやさしい旨味は、雨で冷えた心と体に滋養をもたらしてくれるような気がします。
ベトナムという湿潤な土地柄が反映されているのか、フォーはどこか雨の日を思わせる料理だな……などと思いつつ、麺をずるずるとすすってしまいました。
季節が器を選ぶのではなく、器が季節を迎え入れる——白岩焼には、そんな力があると思います。
長い歴史を持つ海鼠釉の青は、遠い南の国のお料理をも鷹揚に受け容れつつ、雨の日の食卓にそっとやさしい光を宿してくれそうですね。
(器:白岩焼和兵衛窯 渡邊葵作)