七十二候・第六十六候
雪下出麦(ゆきくだりて むぎのびる)

 12月31日~1月4日頃

丼のこと

 

丼のこと

年の瀬は何かと物入りの時期ですが、それはうつわ揃えにおいても同様だと思います。
おせち料理に使う重箱や取皿、お雑煮用のお椀、お箸など、新しいうつわをしつらえて新しい気分で新しい年を迎えたい、と考えるのが人の常です。
段取り上手な方だと、それらのアイテムを早い時期からしっかりと用意しているかもしれませんが、そのような方であってもつい見落としてしまいがちなうつわがあります。

それは「丼」。

この仕事に就いて長くなりますが、年末最終の営業日に駆け込みで年越しそば用の丼を探しに来る方はけっこう多いように感じます。忙しい合間を縫っておせちを手配し、それに合わせていろいろなうつわも準備。でも、年末ぎりぎりになって、丼の不在に気づき愕然とする……といったところでしょうか。
ラーメン用のうつわであれば(ラーメン自体が日本由来のものではないので)、いわゆる「丼」ではなく、「ボウル」のようなアイテムで代用してもよいと思いますが、「そば」というのは江戸の四大名物食のひとつで、ラーメンと同列に考えてはいけないような気がします。
歌川国貞の浮世絵の中にも夜鳴きそばの屋台が出てきたり、古典落語でも「時そば」という演目があったり……。そばは、江戸の粋を体現する食文化のひとつなので、ボウルなどで代用するのではなく、きちんと丼を使い、トラディショナルなスタイルで楽しんでみたいものです。

とは言いつつ……、ネットで購入しようと思うと、検索で上がってくる丼は量産品や業務用品が多く、ちょっと粋だったり雰囲気がよかったりする丼を見つけるのは案外と難しいことに気づきます。
よいものがあればそのうちに……などと悠長に構えていると、いざ年末になったときにお気に入りのものが見つからず、結局ありあわせのうつわで代用する羽目に陥ってしまうことに。年末以外の時期に雰囲気のよい丼を見つけたら、それも出会いだと思い、『まだ早い』などと思わず、あらかじめ手に入れておくのが得策かもしれません。

特別な時間はきちんと選び取ったうつわで―。
食事というのは、ただ『食べられればよい』というものではありません。年が変わる瞬間は、自分と大切な人の延命長寿を願いながら、お気に入りの丼であつあつのそばをすすりたいものです。