七十二候・第四候
土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)

染付楕円皿:工房禅 横田翔太郎作 拭き漆匙:大久保ハウス木工舎作

2月19日~2月23日頃

市販のカレールウを使っても

ご年配の家族がいる方はおわかりになると思いますが、個人差こそあれ、高齢になると、若いときには難なくできた作業ができなくなってきたり、これまでのようなスピード感では動作ができなくなったりしていくもの。
たとえばお料理——。
以前はきちんと三度三度の食事を作っていた人であっても、食が細くなったり支度が面倒になったりして、街場ででき合いのお惣菜を手に入れて済ませてしまう機会も多くなるようです。
それでも、(トレーニング的な意味で)できる範囲で何らかの調理に携わってもらうことが大事かな、と思います。

我が家では時折、80を過ぎた母と一緒に夕飯の準備をしますが、週一回は登場するのがカレーライス。
僕もいわゆる「『ていねいな暮らし』界隈」の片隅で生きている人間なので、ちょっと前まではカレールウを使うのを忌避して、自分なりにスパイスを調合していたものですが、最近になり、母と作るときには市販のルウを使用。ルウについては「複雑な調理が難しくなった人の作業を単純化してくれる魔法の調味料」として意識するようになりました。
誰がどう作っても同じ味に仕上がることをオリジナリティやていねいさの欠如とみる向きもあろうかと思いますが、いつもの食材に毎回違った野菜をプラスするなど、ちょっとした工夫を加えれば、味に変化も出るし、高齢の人にクリエイティブな刺激を与えることになると思っています。
冬から春へと移ろう今の時期であれば、別茹でのブロッコリーとともに小松菜をプラスして。

使ったうつわは、丈夫で使い勝手がよい絵付け磁器。
白地に呉須絵具で絵付けして青く発色させる加飾の技法は「染付(そめつけ)」と呼ばれ、磁器生産黎明期から400年もの間受け継がれてきたもの。食材の色は暖色が多いので、染付の青はお料理の引き立て役として長らく日本の食卓で愛されてきました。和食だけではなく、「家カレー」であってもそれなりにおいしそうに映るところがミソですね。
また、カトラリーは木製、拭き漆仕上げのものを合わせて。
口への当たりがよく、木の箸を使ってきた日本人の食事にはよくなじむアイテムだと思います。

僕自身もそうですが、人それぞれ、家庭それぞれに事情というものがあり、いつでも完璧にていねいな暮らしを送るのは難しいものだ…… と最近とみに感じるようになってきました。
そんなとき、簡単に作れる家カレーでもしっかり受け止めてくれる堅牢で美しい伝統の染付のうつわは、日々の食事を楽しむ扶けとなってくれることでしょう。

(染付楕円皿:工房禅 横田翔太郎作 拭き漆匙:大久保ハウス木工舎作)