七十二候・第四十候
綿柎開(わたのはなしべひらく)

脚付きのうつわ コハルノート

8月23日~8月27日頃

レトロなうつわで暑さをしのぐ

この夏は、地球が壊れてしまうのではないかと思うほどの熱波が世界中を襲い、東京の猛暑日日数は過去最多を更新し続けているそう。
暦の上ではとうに「立秋」が過ぎ、そろそろ「処暑」を迎えるところですが、朝夕に涼しい風が吹いて一息つけるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうです。

こう暑いとつい現実逃避したくなるもので、僕のような昭和の人間は、扇風機だけで過ごせた子供の頃の夏の日々を懐かしく思い出してしまいます。
当時、夏休みのおでかけで連れて行ってもらったデパートの大食堂や繁華街の喫茶店では、定番のバニラアイスクリームをよく食べていた記憶が……。白いアイスにウェハースと真っ赤なさくらんぼやつややかなみかんなどが添えてあったのを思い出します。
いまの若い人たちから見たらなんとも質素なデザートに見えるでしょうが、昭和40年代に幼少期を送った僕にとっては、これもちょっと贅沢な夏の風物詩のひとつ。アイスクリームなんて家でも食べられるものだけれど、外で食べるそれにはどこか特別感が漂っていたものでした。

この連載でも何度か触れてきた通り、日本には古くから、生活の時間を「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」のふたつに分類する考え方がありますが、この視点に立てば、おでかけはちょっとした「ハレ」の行事。そこで食べるアイスクリームもハレのデザートだったことになります。
お店ではきれいな脚(ステム)のついたガラスのうつわに盛られた状態で出てくることが多かったと思いますが、これって、子供ながらにリッチな気分に浸れるポイントだったように思うのです。お子様ランチに小さな旗が立っているのと同様、特別感を演出する視覚的効果があったのかな、と。

脚付きのうつわ(いわゆるステムウェア)は一時、一般の器店に出回らなかった時期もありますが、最近はそのクラシックな趣が見直されるようになっています。若手のガラス作家でも制作する人が増えてきているので、ガラスのうつわを扱っているお店では比較的手に入れやすいアイテムかもしれません。
若い方はちょっとレトロな雰囲気を楽しみながら(エモいってやつですか?)、大人のみなさんは昭和の時代の甘い記憶にひたりながら、脚付きのうつわでデザートタイムにハレの空気を添えてみてはいかがでしょう?
暑い日はやはり、エアコンを効かせた家の中で少しだけ優雅に現実逃避するに限ります。

(デザート器:大内学作)