七十二候・第五十九候
朔風払葉(きたかぜ このはを はらう)

 11月27日~12月1日頃

風呂吹き大根を漆椀

 

デッドストックの大椀のこと

休みの日には、よくアンティーク店を訪ねます。
それも、目が飛び出るほどの高価な骨董品が置いてある店ではなく、一見するとガラクタのようなものも併せて置いてあるような雑然とした店が好き。
今はもう閉店してしまったけれど、以前は東横沿線にあったOという店がお気に入りで、暇を見つけて訪れては店の什器や備品などを買い足していたものでした。

あるとき、その店の大きな水屋ダンス(食器棚)を開けて品物を物色していたら、白木のまま(無塗装)のお椀が数点あるのを発見。
漆器の生産工程は、木地師(素地を作る人)→塗師(漆を塗る人)→蒔絵師(装飾を加える人)と明確に役割がわかれていますが、Oで見たお椀は、廃業した木地師の元に眠っていたものなのだそう。つまり、塗師の手に渡ることなく忘れ去られていたデッドストック、ということになるでしょうか。
ふつうのお椀は直径が四寸(12㎝)くらいですが、このうつわは直径五寸(15㎝)ほど。お椀の場合、直径が大きくなると深さもそれなりに深くなるものですが、このお椀は浅めで、あまり見たことがない形状のものでした。

どう使うかまでは考えていなかったのですが、結局誘惑に負けて購入。その後、いろいろ考えた末、懇意にしている会津の漆作家・村上修一さんの元に送って、塗ってもらうことにしました。
数か月後、塗りあがってきたお椀を見ると、シンプルながらも素敵なたたずまい。やはり、味噌汁にはちょっと浅めかな?という印象でしたが、向付として使ったり、また、スープボウルとして使ったり、いろいろな献立に使えそうだと思いました。

あたたかい日が続いていても、暦の上ではもう冬。朝晩は冷え込みがきびしくなってきました。
つめたい北風が吹く寒い夜、仕事を終えて家に帰ってきたら、あたたかいお料理を胃の中に流し込んで、体も心をリラックスさせたいもの。
そんなときには、風呂吹き大根を漆椀に。
漆というのは若干のフォーマル感をまとっているので、つつましやかに見えるお料理を盛っても、どことなくノーブルな華やぎが生まれますね。
今年もあと1か月ちょっと。すこやかに年の瀬を迎えたいものです。