8/17~8/22頃
やわらかな影
店をやっていると、お客様や作り手の方から手土産をいただく機会があります。
先日は千葉の市川在住の方から、地元で採れた梨をいただいたのですが、梨=鳥取というイメージがあったので、ベッドタウンの市川で梨が採れることに少し驚いてしまいました。
あとで千葉県のホームページを見てみたら、千葉は気候が温暖な上に水はけのよい火山灰土壌が多く、江戸時代から梨の栽培が盛んだったのだとか。鳥取の二十世紀梨も、元をたどれば千葉県松戸の苗があちらに渡って広まったものなのですね。
特に市川市は県下有数の産地だそうで、ものを知らない自分の不明を恥じました。
いただいた梨の品種は「幸水」。シャキっとした歯ごたえが心地よく、噛むごとに果汁が口に広がっていきます。
立秋を過ぎ、暦の上だと朝晩は少しひんやりとしてくる頃合いのはずですが、体感としてはまだ盛夏。しっかり冷やしてガラスのお皿にのせてみました。
ガラス工芸というと、竿の先にガラスの種をつけて空気を吹き入れて成形する「吹きガラス」の技法が知られますが、このお皿は、「パート・ド・ヴェール(フランス語でガラスの練り粉という意味)」と呼ばれる鋳造技法で作られたもの。
あまり聞きなれない技法かもしれませんが、その歴史は吹きガラスが発明されるよりはるか前、古代メソポタミアに遡るそうです。
耐火性の石膏で作られた型にガラスの粉と糊を合わせて練ったものを詰め、窯で焼成して成形するので、やきものと近い方法で作られるガラス器だと言えるでしょう。
パート・ド・ヴェールというガラスの成形技法があることも知識に加えておくと、器を選ぶ際に、選択の幅が広がるのではないかと思います。
吹きガラスのように短い時間でたくさんの点数を作れない技法なので、目に触れる機会は少ないかもしれませんが、どこかのお店で出会えたら、手に取ってその質感を楽しみたいものです。
吹きガラスで制作される器にはクリアでシャープな印象がありますが、パート・ド・ヴェールのガラス器は、曇りガラスのようにやわらかな影を作ってくれるところが特徴。
今回のように、フルーツを無造作にのせるだけでもやさしい雰囲気に。絵になるガラス器だと思います。
(パート・ド・ヴェールの五寸皿:フルカワゲンゴ作)