万年塀の蔦(2)

最近、知り合いの若い女性庭師に訊いたら「フィカス・プミラは悪魔の植物。未だに花屋で売られているのが信じられない」とのことだった。
 僕がこんなことになるとはついぞ知らず、植えてしまったフィカス・プミラは猖獗を究め、我が家の万年塀を覆いつくすと、隣家の側、つまり南側の日当たりを求めて前進を開始していたのだ。それを増築に伴い、隣家は撤去なさっている。これを好機として、僕も同じ植木屋さんにお願いした。

 実は、親の代からいつも庭仕事をお願いしている地元の植木屋さんがいる。この方は父、瞳の作品にも何度か登場しているので、ご存じの方も多いと思う。しかし、今回ばかりは隣家が依頼している建築事務所を通して、知り合いの植木職人を紹介してもらった。
 これには、僕なりの深謀遠慮があった。
 植木屋さんというと、庭木の剪定など、場合によっては隣接するお宅の敷地にまで入って作業をすることが常だ。今回は、特に隣家との境界にもなっている塀を覆った蔦の撤去だ。あるときは塀の上に乗り、またあるときは隣家の敷地内に入って鋏を使うような局面もあるかと思う。
 そんなとき、見ず知らずの人間が敷地内の立ち入ったりすることは、あまり気分のいいものではないのではないだろか。つまり、我が家がいつもお願いしている植木屋さんと隣家の方は面識がない。
 その都度、隣家の方にお邪魔しますと、お願いするのも、かえってご迷惑かと思った。
 逆に、そもそも隣家の植木屋さんに我が家の庭の作業をお願いすれば、全ては一続きの仕事として連結することになる。
 植木屋さんにしても、かねて馴染みのある方の庭先を拝借するのだから気が楽なのではないかと推測したのだ。そこで増築の作業をしている建築会社の方に、その旨お願いして、快諾を得ることに成功したのだ。
 日ならずして、あらわれた植木屋さんは下見をすると、数日後に作業日程を組んでくれて、フィカス・プミラの撤去は一日で終了した。

 庭の景観は父が元気だったころを思い出させる姿となった。コンクリートの万年塀と雑木の庭が変奇館の象徴だった。
 とはいうものの、フィカス・プミラは、未だに庭のあちこちに残っていて、復活のときを虎視眈々と狙っている。