古民家に憧れて

タイトルに惹かれてNHKのBSで放映された「カールさんとティーナさんの古民家村だより」を観た。ここには、僕が理想とする住まいの姿があった。新潟の寒村で、打ち捨てられ、朽ち果てた古い家屋の再生に挑む。とはいえ、ドイツ人である建築家、カールさんの古民家再生は通常とは少し違っている。

 普通は百年を越す民家から使える部材を取り出し、足りない部分を補って移築するというものが主流となるだろうか。つまり、元通りの姿に戻すことに主眼がおかれる。
 しかし、カールさんは部材を最大限、利用しながらも現代の生活にマッチするように、最新の機能も添加する。
 基本的には、全面床暖房、全ての壁には分厚い断熱材を入れて、その上からカラフルな漆喰を塗る。また、開口部はサッシにペアガラスで夏の暑さと冬の寒さに対応する。この辺りは伝統工法とはいえないだろう。
 すでにかなりの戸数をこのやり方で再生している。全部を見たわけではないのだが、畳の部屋はないのではないだろうか。つまり生活の基本は洋風ということになる。シンクはじめ水回りは最先端のものを使う。主婦にはありがたいことだ。
 もしかしたら、耐震に必要のない壁は撤去して開口部としているのかもしれない。それによって古民家にありがちな室内の暗さを軽減しているのだろう。
 何軒かのお宅では薪ストーブも見られた。全体としてスイスの木造住居、シャレーを思わせる。非常に高度なバランスを保った和洋折衷といえる。
 建築の過程で、一番、僕がなるほどと思ったのは、古民家の移築に設計図はない、ということだ。解体して現地に持ち込んだ基本構造を、その場で組んで、これが一対一の設計図、つまり等倍の建築模型となる。寸法が出たところで、一旦解体、基礎をがっちりと打つ。基礎もコンクリートで伝統工法ではないようだ。
 桃源郷のような里山におとぎ話に出てくるような鮮やかなピンクやグリーンの漆喰壁を持つ古民家が点在する。まさに理想的な景観だ。彼が造る古民家は明るく暖かい。

 見終わって、さて我が家はと、あたりを見回すと天井には太い梁、壁は本漆喰、床は無垢の板張りで拭き漆。まあ、変奇館も、それなりにいい勝負をしているかもしれない。