カラス避けゴミ・ネットの行方不明

我が家の周辺がにわかに慌ただしくなり、私道を隔てた東隣りと北西の斜め向かいが更地になった話は前回までに書いている。
 それにともない、向こう三軒両隣のゴミを出す場所が変更になった。特に困ったのは斜め向かいの更地が拙宅のゴミを置く場所だったことだ。それまではこのお宅の方が出してくれていたカラス避けのゴミ・ネットが出なくなった。正確にいえば、そのもう一軒先のお宅が確保していて、随時、出すシステムになったようだ。

 このゴミ・ネットは滅多に出ていることがない。早朝、このお宅を訪ねてゴミ・ネットを出してください、とは言えない。
 つまり、ゴミ回収が停滞することとなった。
 さて、どうしたものかは思案しているところ、或る日、玄関に訪問者が。
 市役所の職員と名乗る制服姿の方が二名で、「山口さんのところは、どこにゴミを出しているのですか」とおっしゃる。
 僕は、これまでの経緯を逐一報告した。
 曰く、数十年前は西隣りだったが、所帯が増えたので斜め向かいに。そこが引っ越したので、今現在はどこに置いたらいいか分らないので、困っている、と。
 ふーん、と職員は納得した様子で、画板に張り付けた地図を確認している。
 「どこに出したいですか?」と職員。
 「どこといわれても、ご覧の通り、隣近所は更地ばかりで・・・」と僕。
 「ここにしますか」と職員。
 エッ、と僕は虚を衝かれた。職員が指さしたのは、我が家の玄関先だったからだ。
 ご存じのように、通常は個別住宅ごとの廃品回収は行われていない。行政によっても違うのだろうが、わが町は数軒ずつ纏めて回収する場所を指定されるシステムだったはずだ。
 「ここって、我が家のゴミは、我が家の玄関の前に出しておけばいいということですか。では、そうしてください」と僕は即決した。

 これにて一件落着。雨の日も濡れないでゴミ出しができる。
 「えーと、山口さんって、あの瞳さんのお宅ですよね」と職員が、一仕事終えて個人的な話をはじめた。
 僕が、そうですよ、と答えると、例の父が書いた「居酒屋兆治」のモデルとなった焼鳥屋で、父とよく同席したとのことだった。
 この町に住み続ける一得とは、こうしたことだろうか。