台風一過

母の死後、今後のことも考えて、二階から中二階の、それまでは納戸にしていた五畳ばかりのスペースを寝室に改装したことは、以前にも書いている。そのとき、徹底的に防音と遮音を考え、またたっぷりと断熱材を挿入してもらった。
 このため、道路に面しているにも関わらず、枕元を通過する自動車の騒音もまったく聞こえなくなり、振動もつたわらなくなった。それはいいのだが、当初から風が強く吹くと、壁の中で異音がするという現象が現れていた。僕は壁の中に排水管でもあり、それが鳴っているのだろうと思っていた。

 今年の九月八日、珍しく、台風一五号が関東を直撃した。それでも寝室は風音もなく、まして家が揺れるようなこともなかった。
 しかし、深夜に至り、強風となり、寝室でパイプオルガンの低音が鳴るようなボーボーという異音が聞こえ、さらにトタン板が壁にバタンバタンと当たるような振動もあり、寝ていられなくなった。
 まあ、天変地異を知らないまま熟睡するのも面白くない、とも思いながら浅い眠りのまま翌朝を迎えた。
 近所から飛んできたトタン板でも壁にぶつかっていたのかと思い、家の外を見回ったのだが、それらしきものはなかった。
 念のため、二階から中二階の屋根の上に出られる扉を開けたところ、原因が分かり、僕はアッと声を上げた。

 以前、二階にはちょっとした洗面所があり、その塩ビの排水管は屋根の上を横切り、壁にそって地上の排水口まで壁の外側に施工されていた。数年前に、この二階にあった洗面所を撤去したさい外壁の塩ビ管の一部がそのまま残されていた。
 地上から四メートルばかりが壁に沿って立ち上がり、下から一メートルの個所がU字型の金具で固定されている。上部が開口しているので、風が吹くたびに空きビンを吹くようにボーボーと共振、共鳴していたのだ。しかも、上部は固定されていないので、強風時にはバタンバタンと壁にぶつかっていた。
 U字金具を固定しているプラスネジのネジ山が滑ってしまったので、小さなくぎ抜きと金槌を持ち出して金具をはずした。根元からノコギリで切断し、切り取った四メートル近い塩ビ管を担ぐ。上部が電線に触れないかと冷や汗をかいた。次の台風では、音がしなくなると思うが、どうなることやら。