車庫の屋根

五月四日の午後四時ごろ、自宅周辺で時ならぬ雹が降った。僕は夕刻から都内で未見の映画を観ていたので、実際に降っているところは目撃していないのだか、直径が二センチ近くもある雹が盛大に降ったらしい。
 側溝に流れたものが排水口に堆積し、同時に降っていた雨量も激しく、雹が詰まって排水できずに道路は冠水してしまったという。日が暮れてから、僕は最寄りの駅を降りたのだが、五月とは思えない冷気を感じたので、何事だろうと思い、立ち寄った行きつけの小料理屋で事情を聞いたところ、雹が降ったのだという。

 深夜に帰宅してから、テレビのニュース番組を観ていたら、はたして被害は甚大だという。それも隣近所の町内の映像が使われている。
 翌朝、もしやと思い、家の回りを点検してみた。庭の樹木は枝が打たれたようにしなだれていて、地表を覆うギボシなどは葉をあらかた失っていた。
 外に出て車庫に駐車している車を見たら、薄茶色の三センチ四方ほどの見慣れないものが大量に付着している。何事かと見上げてみると、車庫の屋根であるアクリル板に無数の穴が空いている。施工してから四十年余りは経っているから、硬化してしまっていたのだ。
 落ち葉かと見間違えたのは、そのアクリル板の小片だったのだ。アクリル板が緩衝して車体にはこれといった傷がついていない様子だ。不幸中の幸いというものだろうか。
 やれやれ、また面倒くさいことになったなあと思った。まあ、そもそも施工してくれた土地の植木屋さんに連絡すれば、それでことたりるのだが。

 翌日、駅前の父親の代から行きつけにしている寿司屋のご主人の葬儀が隣駅の斎場であった。八十二歳というから、まずまずの大往生だろう。最近、行きつけの店の主人が亡くなったり引退したりすることが増えている。いずれも、来年で古希となる僕より年上なので、これはいたしかたないことだろう。
 斎場でお目にかかった、高校の先輩でもある建材会社の社長さんに車庫の屋根の写真をお見せしたら、「これは最高級の素材だね」とおっしゃる。アクリルにビニールのネットをラミネートしたようなものだった。修理はいつもの植木屋さんにやってもらいなさい、とのことだった。(この項、つづく)