シジュウカラの営巣

キジバトが庭の南よりの隣家との塀際に植えられている月桂樹の枝に巣を造り、雛が巣立ったことは去年、このエッセイで書いた。 今年は三月下旬から庭に置いてある陶製のテーブルと椅子のセットのうち、椅子の方にシジュウカラが巣を造ってしまった。
 陶製の椅子というのは、ちょっと中国風のデザインで樽型のものである。割と一般的なごくありふれた庭用のテーブルと椅子二脚の三点セットだ。これに父、瞳は樽型の椅子を二つ買い足して利用していた。

 瞳は毎日、かなりな時間を庭で過ごし、水をやったり、雑草を抜いたりしていた。そして、疲れると、この椅子で一服するのが日課になっていた。
 この陶製の椅子でシジュウカラが営巣するようになったのは、いつ頃からだっただろうか。椅子には楕円形の穴が二つ開けられていて、これはもちろん椅子を移動するときに手を入れて持ち上げるためのものだ。
 この寸法がシジュウカラにとって、ちょうど巣穴にするのに適しているのだろう。同じように庭に飛来するスズメやメジロ、ましてウグイスなどは、この椅子になんの興味も持たないようだ。
 そういえば、毎年、ウグイスが巣を造って繁殖していた隣接する敷地の、わが家にとっては南西の角に生えていた名前も分らない常緑樹は、隣家が六棟の建売住宅になったときに無残にも切り倒されてしまった。
 それ以降、ウグイスが営巣することはなくなった。新しく引っ越してきた方は、ここがウグイスの子育ての場であったことをご存じないということになる。

 それはともかくとして、シジュウカラが巣立ったあとで、件の陶製の椅子をひっくりがえしてみると、数センチの厚さに獣の産毛やら苔などがびっしりと敷きつめられてある。
 今は親鳥が雛に餌を運んでくる時期だ。それは親鳥の出入りが頻繁になるので分かる。もう少したつと、雛の鳴き声が件の陶製の椅子の把手である穴から聞こえてくる。もう巣立ちのときも迫ってきているのだ。
 この椅子をシジュウカラが繁殖に使うのは久しぶりのことになる。ここ数年は別の場所で巣造りをしていたのだろう。不思議なことに、今回は家に一番近いところに置いてある椅子を使っている。シジュウカラ用にと庭の隅にひとつ移動させてあるのだが、そちらは使わない。人家に近い方が安全だと考えているのだろうか。