寝室を造る(2)

家の中で引っ越しをした。いわゆるリフォームというものだろうか。
 二階から中二階に引っ越して、これを新しい寝室としたのだ。広さは五畳ほどになる。
 かねてよりの計画とはいえ、実行に移すまでには、ずいぶんと時間がかかった。
 しかし、今やらなければ、本来の目的とするころには、僕自身の体力気力が追いつかなくなっているだろう。そこで決心が着いたのだった。
 本来の目的とは、僕が寝たきりとまではいかないが、身体の自由が効かなくなったときのために、あらかじめ、介護などがしやすいようにしておく、というほどの意味だ。
 新しく寝室とした部屋は元々、両親の寝室であったものなので、その点では違和感がない。ただし、それは例の増改築の前なので、今よりは少し広かったと記憶している。

 この寝室の利点はトイレと隣接しているということだ。段差もなく、わずか数歩でトイレにたどり着くことができる。
 しかし、夜になると、トイレの微かな漏水が気になる。ベッドに寝ると壁越しの枕元が便器になるのだが、それはちょっとした工夫で解消することができた。糸を垂らして水滴を誘導したのだ。これで水滴の音はしなくなった。
 そのほかの工夫としては、寝室の壁の四隅にコンセントを設置したことだろうか。
 僕が映画鑑賞のためのテレビとオーディオを好むことにもよるのだが、夏期のエアコンと冬季のオイル・ヒーターのためにもコンセントは必要だった。
 念のための用心なのだが、いずれは寝たきり、電動のベッドが必要になるかもしれない。
 母は最後の数週間、自宅内で酸素吸入を必要としていた。酸素を発生させる機械を導入していたのだが、僕にもそんなものが必要になってくるかもしれいない。

 そのほかにも、なにかと種々の医療器具が必要とされるとして、やはりコンセントは充分用意しておくにこしたことはないだろう。まあ、考えすぎだなあと自分でも思うのだが、先々のことは誰にもわからない。
 現に、母のために家の中の要所要所に設えた手すりには助けられている。
 母自身は最晩年にあわてて手すりを付けたので、それほど長い時間、使用しなかったのだが、僕はすでに浴室やトイレの中で利用していて、これは大変、重宝している。
 なにごとも転ばぬ先の杖だろうか。