第13回 古都と新しい工芸 vol.1

第13回 古都と新しい工芸 vol.1

 「日本文化を特徴づけている、一番重要な要素は何だと思いますか?」と聞かれて、真っ先に思い浮かぶのは「季節感を取り込むこと」。

 僕が商っている器と工芸は、こういう感覚が特に大事にされる世界だと思います。
 「器は料理の着物」(by 北大路魯山人)という言葉通り、春夏秋冬それぞれの旬の料理を楽しむために、その衣である器にもちょっとだけ気を配るのが日本流のテーブルセッティング。

第13回 古都と新しい工芸 vol.1

 お茶の世界では二十四節気七十二候を大事にしますが、そこまで厳密ではなくても、その日の気温や湿度などに応じて使う器を選ぶ、という経験は誰にでもあるのではないかと思います。
 たとえば、寒い日にはぽってりとした土ものを使いたくなるし、暖かくなってきたらすっきりとした白磁を使いたくなるもの。そして、汗ばむような陽気になると食器棚から登場するのが、ガラスの器。

 舶来モノであるガラスの器は、千年以上の長きに渡って日本人の食卓に寄り添ってきたやきものや漆器に比べると、新顔と呼んでもよい存在かもしれません。
 それなのに、これほど日本の食卓に溶け込むようになったのは、ガラスが「季節感」というものの演出に一役買う素材だったからではないでしょうか。

第13回 古都と新しい工芸 vol.1

 最近は特にひどくなりましたが、日本の夏は元々高温多湿。
 そんな時、透明感を持つガラスの器は、食卓に涼風を運んできてくれるように思えます。
 冷菜や素麺などを盛り付ければ、ひんやりと涼しげな印象に。また、飲み物に氷を入れれば、カランカランと軽やかな音をたて、視覚だけではなく、聴覚においても清涼感を演出してくれます。

第13回 古都と新しい工芸 vol.1

 ガラスは上述の通り、新しい工芸なので、伝統的な産地が存在しません。
 東京の下町にはガラス工場や切子工房が集積する地域がありますが、小さな規模で制作している工房ならば全国に点在しています。
 そして、ちょっと意外かもしれませんが、伝統工芸の地だと思われている京都にも素敵な作品を制作するガラス工房が。次回は、そんな話をしてみたいと思います。