第14回 古都と新しい工芸 vol.2

第14回 古都と新しい工芸 vol.2

 前回、新しい工芸であるガラスには伝統的な産地がない、という話をしましたが、吹きガラスをはじめとする実技が学べる教育機関ならば、日本各地にあります。
 僕とお付き合いのある作り手も、そういった学校で基礎技術を学んできた方々がほとんど。具体的には、富山ガラス造形研究所や東京ガラス工芸研究所などが挙げられるでしょうか。

第14回 古都と新しい工芸 vol.2

 20年近いキャリアを持つ小林裕之さん希さん夫妻は、東京ガラス工芸研究所で必要な技法を学び、裕之さんの地元である京都伏見に戻って工房を開きました。
 そのあと長らく、個人作家としてそれぞれ別々の吹きガラス作品を制作していましたが、一昨年から、ふたりでひとつの作品を手掛けるように。
 個々に活動していた頃は、ふたりとも、造型の面白味や色彩表現の妙味を重視した作品を作っていたそうですが、共同作品については、日常に溶け込む器の制作を目指して、これまでとは異なる表現方法を模索。そこで考えついたのは、吹きガラスで造形しにくい六角形や十二角形などの幾何学的かつシンプルなフォルムの器を制作することでした。

第14回 古都と新しい工芸 vol.2

 そのために採用したのが、「型吹き」と呼ばれる成型技法。
 「型吹き」という言葉の響きには、プレスして量産するような印象がありますが、実際はそうではなく、吹きガラスのプロセスの最後に、「『型』を用いて形を整える」という一工程が加わることを意味します。
 熱い状態のガラスを鉄の型に充てて仕上げた器の表面には、たくまざる皺が生じることで独特の詩情が。
 この不思議なテクスチャーは、幾何学的な形状が持つミニマルな規則性に人間的な揺らぎを添えてくれるように思います。

第14回 古都と新しい工芸 vol.2

 小林さん夫妻の作品を見るたびに感じるのは、ガラスという新しい工芸であっても、土地の空気と無縁ではいられない、ということ。彼らの造型デザインに対する美意識の鋭敏さには、かつて古都に生きた美術家や工人たちの営みが目に見えぬ形で影響を及ぼしているように思えてなりません。
 もしかして、京都のように長い歴史を持つ土地には、文化芸術を司る地霊(ちれい)のようなものが棲んでいるのかも。
 そんな僕の見立ては、あまりにオカルトチックでしょうか。