第1回 小石原のやきもの・飛びかんな vol.1

 今でこそ、器の世界にどっぷり浸っている僕ですが、百貨店内の異動によってこの部門を担当することになった19年前は、右も左もわからないズブの素人。バイヤーから与えられるがまま、初めて見る器の特徴をただひたすら覚える毎日を送っていました。

小石原のやきもの・飛びかんな

 そんななかで、ひときわ強く印象に残っているのが、細かい無数の削り模様を渦巻き状に連ねたお皿。
 のちに器について勉強してゆく過程で知ったのは、この美しい装飾が「飛びかんな」と呼ばれる伝統技法によって施されたものであること。そして、これが福岡県・小石原と大分県・小鹿田(おんた)の民芸陶器に見られる特殊な技法であることでした。

小石原のやきもの・飛びかんな

 その後、新入り従業員としてのルーティン(並べる・拭く・売る)を続けてゆくうちに、飛びかんなによる模様の出来栄えにはかなりの個体差があることに気付きました。削りの深さ、幅、ピッチ―。それらが一点ごとに異なっているのです。
 こうした直感的でラフなモノづくりのありようは、ちょっとしたカルチャーショックでした。精巧かつ均質な工業製品を生み出す日本の片隅に生き続ける古いモノづくり。人の手の揺らぎを許容する民芸的な大らかさとの邂逅は、器ビギナーである僕の心を強く揺さぶりました。

小石原のやきもの・飛びかんな

 あれから相当の時間が経ちましたが、飛びかんなの器との対話は、当時とはまた別の形で続いています。
 現在は、小石原の窯元との新たなご縁を通じ、伝統をアレンジしたモノづくりを試みているところ。従来の色合い(褐色と白のモノトーン)とは異なる釉調(わら灰による深い青)によって、飛びかんなという加飾技法が持つ素朴な伝統美を時代に寄り添わせたいと考えているのです。

小石原のやきもの・飛びかんな

 守るべきものと変えてゆくべきもの―。長く続いてゆくモノづくりとは、この両輪のバランスがあって、はじめて可能になるものなのかもしれません。
 そのあたりについては、また次の機会にお話ししてみたいと思います。