第25回 かわいい九谷 vol.1

九谷焼は、日本の陶芸史のなかで独特のポジションを築いてきたやきもの。
古典様式で制作された豪奢な雰囲気の九谷は、現代生活で使うには二の足を踏むような存在かもしれませんが、日本の陶芸界に色絵磁器というオプションを示した功績は計り知れません。

川合孝知

僕が九谷焼の器に出会ったのは、百貨店勤務時代のことですが、独立後は落ち着いた風合いの器を扱う方針だったので、あでやかな色絵の器とはしばらく縁が薄い状態が続いていました。
けれど、川合孝知さん(石川県能美市在住)の手になる器に触れることで、それまでの九谷焼に対する印象はガラリと変わりました。こんなにポップな器がホントに九谷???という感じで。

川合孝知

彼の作品を表現するのにしっくりくる言葉は、「カワイイ」という形容詞かな、と思います。
白磁が持つ素地の白さを活かしつつ、花や動物などの愛らしいモチーフを小紋のごとく器全体に散らすように描くのが、川合さんの作品の特徴。
それらの器は食卓に並べ、料理を盛ることで、僕たちの日常に軽やかな癒しの効果を与えてくれるものだと思います。

川合孝知

九谷焼を九谷焼たらしめているのは、何と言っても、赤・緑・黄・紺青・紫で構成された色絵具=九谷五彩。
古典様式であれば、これらの原色同士を隣り合わせた力強い色使いが求められるのでしょうが、川合さんの描き方だと、器はポップな印象に。
伝統的な五彩で「カワイイ」を表現するなんて、目からウロコ。見て愛でる重厚な様式美の世界に、使って愛でるカジュアルさを持ち込んだところに新しさを感じます。

川合孝知

早いもので、川合さんとのお付き合いはすでに十年以上。
よく、十年ひと昔などと言いますが、その間に店の意識も進化して、新しいことにチャレンジしたくなってくるもの。そして、それに従って、お店の方から作り手の方々にいろいろなお願いごとをする場面も増えてゆくものです。
次回は、工房の様子とともに、川合さんに現在お願いしている新しいチャレンジについてお話ししてゆきたいと思います。