第22回 笠間とスタンダード vol.2

笠間とスタンダード

かつて笠間(茨城県)の作り手の人たちに「笠間焼の特徴はなんですか?」と尋ねると、決まって「特徴がないのが笠間焼の特徴です」という答えが返ってきたものです。
『特徴がない』というのは少々自虐的な言い回しのようにも思えるけれど、その言葉の意味合いについてよく考えてみると、笠間にはいろいろな作風が許容される寛容さがあり、個々の作り手の自由度が高い、と言い換えることもできそう。
実際、笠間には他の産地のような大きな製陶所が少なく、窯業従事者のうちで個人作家が占める割合はかなり高いと言われています。

笠間とスタンダード

前回の記事の最後の方でご紹介した阿部慎太朗さんも、笠間を拠点に活動する個人作家。
東京の四年制大学に通っていた阿部さんは、学内の陶芸サークルに入ることでやきものの世界に出会い、はじめは曜変天目、さらには日本や朝鮮の古陶磁に傾倒していったそうです。
そして、大学を卒業する頃には陶芸の魅力にすっかりはまり、東京から最も近い窯業地・笠間にある窯業指導所に入所。釉薬を中心に、基礎から陶芸の勉強を重ねました。彼のその後の活躍についてはご存知の方も多いと思います。

笠間とスタンダード

阿部さんの作品の特徴と言えば、ヨーロッパのアンティークに見られるような端整なフォルムですが、そのような作風を生み出すきっかけになったのは、骨董市でフランスのサルグミンヌ窯のプレートに出会ったこと。
使い込まれ貫入が入ったそれらのプレートを見たときに、阿部さんの心の内には「100年後にアンティークとして流通するようなうつわを制作しよう」という想いが浮かんできたそうです。
うつわの本旨は、言うまでもなく『料理を盛ること』。それを意識し、余白のスペースを大きく作り、釉薬には、食材を活かす白やグレーなどのベーシックな色を。阿部さんのうつわを見ていると、使い手が子供の代に移り、さらに孫へ……と、100年後の日常で飽きずに使い続けられている光景が容易にイメージできます。

笠間とスタンダード

前回の記事では「現在、空前の『うつわブーム』がやって来ている」と書きましたが、ブームというのは、言ってみれば『非日常』や『偶然』の産物。これを『日常』や『必然』に転化させてこそ、うつわという物質が、生活文化の一部として普遍性を得る(=スタンダード化する)ことになるのだと思います。
「100年後にアンティークとして……」とは、そういう意味を含む想いなのだと僕は解釈しています。

第22回 笠間とスタンダード vol.2

阿部さんがこれからどんな作品を生み出してゆくのか、またその作品がどのように使う人の暮らしの一部になってゆくのか、ひとりの器屋店主として、そのなりゆきについてはこれからも見届けてゆきたいと考えています。
さすがにあと100年は生きられないけれど。