第4回 越前のやきもの vol.1

 器の質感を言葉で的確に表現するのはすごく難しいと思いますが、日本語はオノマトペが豊富なので、僕はついついそれを多用してしまいます。

越前のやきもの

 ざらり、ざらざら。

 中世から続く窯業地・日本六古窯(*注)のひとつに数えられる伝統的な越前(福井県東部)の野趣あふれるやきものの質感を例えるには、この「ざらり」という擬態語がぴったりなのでは。
 土を成型した後、釉薬を掛けずに焼成する「焼締(やきしめ)」という制作技法で作られる器たち。高温で焼くことにより、土に含まれるガラス質の成分が溶けて内部で土と土を吸着させる接着剤の役割を果たすため、あえて釉薬でコーティングせずとも器としての堅牢さが実現できるのです。

越前のやきもの

 日頃つるりとした釉薬に包まれた器を使い慣れている人は、このような質感にちょっとした違和感を抱くかもしれません。
 ただ、この質感は、「人間の力をなるべく最小限に絞り、炎の気まぐれに委ね、土が持つ力を最大限に引き出している器」であることの証左だと思います。それについて思いを馳せながら焼締を手に取ってみると、(ブラタモリ風に言うなら)長年かけて堆積してきた大地の声が聞こえてくるかのよう。

越前のやきもの

 また、ざらりとした表面のところどころに見えるキラキラした部分やゴマを振ったような部分は、窖窯(あながま)で焼成した際に薪の灰が器に降って定着したもの。灰が自然に釉薬のような役割を果たし(=自然釉)、器にたくまざる趣を添えていることになります。
 制作過程における偶発性というか、人間の理知を超えたところに、焼締に宿るやきものならではの工芸的魅力を見て取ることができるのではないでしょうか。

越前のやきもの

 焼締の器は、焼く前の土の記憶を残しているかのごとく、乾いている状態と水を含んだ状態の風合いが異なります。
 料理を盛る前は、ぜひ水を含ませて。すると、質感は「ざらり」から「しっとり」へ。その変化を楽しみながら胃袋を満たすと、心も一緒に満たされてゆくような気がします。

 *注:陶磁研究家の小山富士夫により作られた言葉で、中世から現代まで淘汰されずに継続的に陶器を生産している産地を指したもの。瀬戸・常滑・信楽・越前・丹波・備前の六地域がこれにあたります。