第33回 旅とコロナ禍

今回が2021年最初のコラムとなります。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

コハルアン

これまで「旅する器屋」としての矜持を持ちつつ、旅先で出会った手仕事を紹介してきました。
本来、素敵な器を選ぶだけであれば、旅などする必要はないのかもしれません。昔と違って、作り手とのコミュニケーションツールはいろいろあるわけだし、なかには、こういうやり方について、「そこまでしなくても買付なんてできるのに。無駄なことをしているのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
いまはコスト重視の時代ですからね。それはそれでひとつの見識であると言えるでしょう。 
ただ、僕は不器用で、作り手の手わざを実際に見てはじめて、手仕事に対する理解を深めることができるタイプの人間。平たく言えば「現地に足を運ぶ派」なのだと思います。

コハルアン

そして、この連載を読んでいる方は既に気付いていると思いますが……。
名勝旧跡であるとか、その地で食べられている名物であるとかを楽しむのも出張の醍醐味。
そういった経験が出張に必要不可欠なものだとは言いきれないけれど、それでも、一見関連性のない物事が点のような存在として記憶に積み重なってゆくことで、手仕事についての理解がさらに深まり、点描画のようにひとつの形を成してゆくように思うのです。

コハルアン

ところが、2020年は、まるまるコロナ禍の一年になってしまいました。
こういった状況での対応は個々で異なってくると思いますが、僕は、昨年の出張をすべて中止にしました。慎重すぎるかもしれませんが、やはり感染の中心地から鄙の地へ移動することについては抵抗感があり……。
よく「歌を忘れたカナリア」などと言いますが、「旅を忘れた器屋」という感じで過ごした一年だったかな、と。
僕の場合、旅は日常の対立軸ではなく日常を形作る要素のひとつ。コロナ禍が早く収束に向かい、「旅する器屋」という本来のスタイルを取り戻したいものだと思っています。

コハルアン

今後しばらく、このコラムで、制作現場の最新情報をお知らせすることは叶いませんが、これまで旅の中で見てきたことを緩やかにお話ししてゆきたいと思います。
旅はまだ続きます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。