第32回 秩父の織物 vol.4

秩父の織物

出張で旅するときは、「これからおじゃまいたします(←仕事前)」もしくは「本日はおじゃまいたしました(←仕事後)」という気持ちを込めて、地元の神社仏閣を参拝することにしています。
昨年、秩父のほぐし織の工場・新啓織物を見学した際には、二ヶ所の神社を訪ねました。

秩父の織物

まずは、秩父神社。
こちらは町の中心部にある大きな神社で、秩父夜祭が開かれることで有名。
失礼な言い方かもしれないけれど、現在の秩父の町の規模から考えると、その立派さが際立つ感じ。この地が、秩父銘仙で一世を風靡するずっと前から織物の一大産地であったこと、さらに関東山地を含む広大な秩父地方一帯の物産集積地として栄えていたことが、この神社の壮麗さから想起されます。

秩父の織物

そして、宝登山神社は、秩父の町から少し離れた長瀞に鎮座。
こちらの神社で目を引いたのが、守護獣の姿。全国的にみれば、阿吽の獅子+狛犬が一般的かもしれませんが、こちらの神社では山犬が奥宮を守護。かつて東征の途中でこの地を訪れたヤマトタケルを導いたのが、山の神の使いである山犬だったことから、このような珍しい石像が配されているのだそうです。

秩父の織物

古くから、秩父を含む旧武蔵国西部の山岳地帯には、山犬と似通ったオオカミを信仰する風習があるそうです。
我々は現在、ニホンオオカミが絶滅した列島に生きていますが、この風習は、この地方で数百年前まで人間とオオカミが共生していたことを示すもの。田畑を荒らす動物(イノシシなど)を捕食してくれたことから、農耕を守ってくれる動物として神格化されたのだと思われます。
こうして、今に伝わる風習から、その土地の過去の姿を想像するのも旅の醍醐味であり、それは「知の冒険」と言えるかもしれません。

秩父の織物

そして、ここからは余談ですが……。
秩父を旅するのなら、ぜひ、池袋駅から西武鉄道の特急ラビューに乗ってみてください。
このラビューは、プリツカー賞(建築界のノーベル賞)を受賞した世界的建築家・妹島和世さんによる近未来的デザインの列車で、大型の車窓からはダイナミックな秩父の山並みを堪能することができます。
池袋からおよそ一時間二十分。ちょっと贅沢な列車の旅を楽しめるのではないでしょうか。
 
 
追記
先述の秩父神社と宝登山神社、さらに三峯神社(←オオカミが神の使い)を合わせて秩父三社と呼ぶそう。
ただ、三峯神社は秩父の町なかからあまりに遠く、出張のあとさきに参拝するのには少々無理があり、前回は訪ねることができませんでした。コロナの感染拡大が収まったら改めて訪ねてみたいと思っています。