奇館の庭は雑木林を模しているということは以前にも書いた。新築したときに、懇意にしていた奥多摩の造り酒屋の裏山から実生の苗木をもらってきて、それを植えたと。
しかし、どうもこれは僕の誤解であったようだ。
いま、ちょっと別の理由があって父が週刊新潮に連載していた、連載エッセイの「男性自身シリーズ」を最初から読み返している。その第601回目、「雑木林の庭」を読んで、愕然とした。庭に椿があったということは聞いていた。ある時期、瞳は椿に凝った。根が凝り性だから、いいと思うとあれもこれもと買い込んで、はじから庭に植えていった。
庭の道路に面した東側の垣根を椿の生け垣のようにしょうとしていた。
しかし、きれいな花を咲かせたころ、悲劇がおそう。チャドクガが大量に発生したのだ。
庭に出るたびに身体が痒くなる、というような話はきいていた。毎年、きまったころになると痒くなるとも言っていた。それがチャドクガのせいだということに、やっと気がついた。
そうなると、すべて撤去しなくては気が済まなくなるのだった。
懇意にしている植木屋さんにお願いして、椿は、近所の谷保天満宮の雑木林(これは本物の立派な雑木林です)に引き取ってもらうことになった。
そして、すっかり寂しくなった庭を再び雑木林にすることにしたのだった。
瞳が植木屋さんに頼んだのは、ナラとクヌギを主体としてヨウドメ、ウメモドキ、ナナカマド、ナツハゼ、ガマズミ、エゴ、ヤマボウシ、ムラサキシキブ。下草としてカンアオイ、シダ、富貴草、コクマザサなど。
こうして、安心して庭に出られるようになったと書き残している。
だから、変奇館の雑木林は二代目なのだった。一九七五年のことだ。僕は、そのころ、都内に下宿していたのでうっかりしていた。