江分利満家の方かい 山口正介

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ひょんなことから真冬のニュージーランドに行ってきた。南島でホエール・ウォッチングとともにアザラシやアホウドリ、イルカなどの自然観察をしようと思い立ったのだ。
 投宿したのは人口四千人ばかりの小さな町にある小さなホテル。外観は木造風の二階建てでウッディなコテイジ風である。室内は広く、現代的な水回りが備えられていて、一流ホテルの趣だ。
 窓辺に設えられている薪ストーブを見て、僕は歓声をあげた。宿泊者が自分で火を着けるというシステムだった。

 これは昔から憧れのものではないか。拙宅にも欲しいとかねてから思っていたのだが、住宅街の真ん中では、いかんともしがたい。 変奇館は新築当時、寒くなったら点火して春先まで着けっぱなしという石油によるセントラルヒーティングだった。ある日、近所の奥さんが、「お宅の煙突から黒い煙が出てますよ」と通報してくれた。どうやら不完全燃焼していたようだ。そんな近所の手前もあり、薪ストーブの導入も躊躇していたのだ。
 しかし、たき火は我が家のお家芸である。 父、瞳は落ち葉が溜まると、庭の一角に掃き寄せて、たき火を楽しんでいた。
 あきもせず、冬場は毎日のようにたき火をしていたが、人は囲炉裏や暖炉を囲むと心が安らぐという。神経質な瞳にとってたき火はちょっとした精神安定剤だったのだろう。

 僕もたき火は好きだ。父の死後、庭でいつものように、たき火をしていたら、やはりご近所から苦情が出たし、市のほうでも規制しているようだった。父の頃はまだ家も建て込んでいなかったのだ。
 こうして、我が家のお家芸は断絶しようとしていたのだが、このホテルには、憧れの薪ストーブがあった。マッチ箱大の着火剤を仕掛け、ソフトボール大の油脂をたっぷり含んだ地元の松ぼっくりを三個ばかり焚き付けとして、松材とおぼしき薪をくべた。
 薪ストーブも我が家のお家芸にしようか。