ぼくは、道具って、使えないといけないと思うんです。経年変化で味がついている、というのも、たしかに大事でしょう。でも、タンスは眺めるものではなくて、着物を入れる、セーターを入れる、というものですからね。そりゃあ、たとえば、東北のほうの蔵に眠っていた時代ダンスって、買ってきたときは、キタナイものもあります。
それを、これからも使ってもらうなら、ここできっちり手を入れて、隅々まで洗って、よく乾かす。そうすると、木は縮んで隙間ができますからね。きちっと隙間を埋めて、カギもしっかりかかるようにし、ガタガタしないように、滑りがいいように …… 味はそのまま残して、何年間も十分、使えるようにします。
家具を直すのは、特殊な技術というよりは、根気を持って、しつかりとやればいいんです。金具をつくるとか、漆を塗り直すとかいうと、これは、かなりの熟練が必要ですけど …… まあ、単純にいうと、ウチの仕事は、もともとはどうだったかを、イメージしながらやるんでね。味わいを残すことをしつかり把握すれば、特別な大工仕事というのは、それほど要りませんから …… でも、風合いを残すのも、難しいんですよ。
仕事を始めてまもないころ、桐ダンスを一本、直してもらおうとして、出したんです。お客さまの希望は、風合いをそのままに、中をキレイにしてほしい、ということでした。ところが、あがってきたら、カオはピカピカで、さあ、大変。直した方は、桐の更生屋さんですから、カンナをかけて、ピタっとするのが、仕事。マジメになさったんです。
われわれは、道具屋です。ああ、やっぱり考え方が違うんだ、と思ってね。いじるところといじらないところ、味と汚れ、その区別をしっかりすることを、考えてやらなきゃいけないと思いましたね。いまはもう、どこにも出しませんよ。全部、自分でやります。