好きなことができて、さらに人に喜んでいただけるというのは、とても幸せなことだなあと。毎日店にくるのが楽しくて仕方がない。ここでお客さまを待ちながら、時計修理をする。そして、柱時計のコチコチ・ボーンボーンという音を聞いていると、それだけで幸せです。ネジを巻く時計というのがすべてではないけれど、ボクはそういう所作が好きですね。モノなんだけど、なんかこう家に家族がもうひとりいるような感じ。ジージージーとネジを巻く・・・ごはんをあげてなかった、ゴメンゴメン、という感じ。手入れもしてあげなきゃ・・・そういう面倒だったり不自由な感じが楽しめると生活って面白いと思う。時計のネジを巻くと、それに応えてくれるかのようにコチコチ動き出した時には、なんともいえない喜びがありますね。
「TRIFLE(トライフル)」という店の名前は、ある喫茶店で妻と二人でトライフルというデザートを食べていた時に決めました。ありあわせのスポンジケーキや果物、クリームなどでつくるイギリスの家庭のお菓子なんですが、古いモノたちも新しいモノと生活の中にうまくミックスしていったら、その人にとっての「トライフル」=「おいしい生活」になるんじゃないかと。店の名前にぴったりだと思いました。トライフルには「つまらないモノ」という意味もあります。興味がない人にとってはつまらないモノかもしれなくても、自分にとって素敵なモノならいいな、と。
以前はコレクションとしてモノを買う、時計を買うという方が多かった。それが最近は、時計を直して使いたい、昔のモノを見直したい、という方が増えてきているようです。モノって出逢って迷って悩んで、それでも欲しくて手に入れる、そして大切に愛用していく。そうやっていても、壊れてしまうことだってあります。それも本来のモノの魅力のひとつだし、それを直して復活させればまたさらに愛着が湧いてくるし、そうやってその人とモノとの歴史がつくられていくんだと思いますから。
できれば、この西荻窪で細く長く店を続けながら、多くの人にとってよい意味でも「トライフル」になれたらいいなと考えています。