忘れ得ぬ客と器と時代

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そうねえ。私は、他の人があまりやらない隙間を探しているわけですよ。その隙間が得意になり、充実すれば、お客さんはそこをめざしてきてくれるわけですからね。

伊勢屋美術・ギャラリー壽庵たとえば、鼓(つづみ)という打楽器がありますね。自分の中のどこかに、何か特徴を持たなきゃな、というのがあって・・・業者間の市場でも、何百人と集まってセリを行っているのですが、楽器を扱う人って、そんなには、いない・・・それが、私が鼓を買っているということは、見ていればわかります。そのとき、きていた業者のどなたかに、お客さんが、おたずねになったとすると「あ、あの店が買ってるよね」と。その方が、私の店でお求めになるとする。それを演奏会で使うとする。それ、いいじゃない。いい音じゃない。どこの店で買ったの、と、そんなふうにご縁があって、お客さんに知れわたって、ひろがっていくのですね。ものが好き、というよりも、ご自分の生業として、必要なものを集めにいらっしゃる。アマチュアの方も、プロの方も、いますね。

うーん。いまもう、インターネットという世界ができましたからね。見て、手で持って、さわって、実感して、納得して買うのではなく、映像と情報だけで、送ってください、ということになる。それで、買うことを満足する方が買っているのですね。それでいいのなら、それでいいじゃないですか、としか、思えませんね。

伊勢屋美術・ギャラリー壽庵昔はね、毎日、ここへきた人がいたんですよ。日課みたいに。そんなに毎日きたからって、品物は、かわっているわけでもないのに。時間つぶしみたいにくる人がいてね。何か、つきあって買ってくれるんですよ。よく見ているといいから、これ、もらって行くよ、って。それで、陶器の話をしたり、絵の話をしてみたり。持っている知識を出し合って、ああだ、こうだというのは、楽しかったんですけど、だんだん、そういうのなくなりましたね。

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伊勢屋美術・ギャラリー壽庵

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