子どもたちが夏休み期間に入る7月と8月は毎年、モビール作りのワークショップを依頼されることが多いです。ワークショップというのは、お客さんが実際に手を動かす体験イベントのこと。今年は特に依頼が多く、いろいろな場所で開催する機会に恵まれました。
中でも東京のアートセンターからの依頼は、とても良い刺激になりました。これまでは商業施設からの依頼が多かったので、買い物の途中の短い時間で楽しんでいただけるような内容のものをおこなってきました。30分程度で簡単に作れるように、パーツを用意して、その中から選んで完成させるというもの。こちらも好評ではあったのですが、本当の意味でのワークショップではないという違和感を感じていました。もう少し何か別の形でできないだろうかというのは、常に頭の片隅にある課題だったのです。


そんな中、東京のアートセンターから依頼をいただきました。普段は大人向けのアートの展示や、若手アーティストの育成などを行っている施設で、その時期だけ夏休みを過ごすお子様向けに様々な分野で活躍するクリエイターを集めたワークショップを開催するという企画でした。お話を聞くと、1回につき2時間ぐらいで、モビールについてじっくり理解を深められるような内容で行いたいということでした。これまで頭にあったイメージを形にするチャンスでした。できあがっているパーツを選ぶのではなく、1枚の紙から切ったり貼ったりして、手を動かしながら、自分だけのオリジナルなモビールを1から作っていくような内容にしたいと思いました。ただ何もないところから自由に作るというのは、逆に自由度が高すぎる気がしたので、最低限モビールとして成立する枠組みを用意して、モビールの構造やバランスの取り方、デザイン的な配置の仕方などを伝えたいと思いました。また、モビールについても理解を深めてもらいたかったので、最初にモビールの歴史をスライドショーで紹介することも行いました。

結果的に2時間丸々、工作に没頭する時間を提供することができて、モビールに関する理解も深めていただけたと思います。驚いたのは、最初に少し説明をしただけで、あとは皆さん(大人も子どもも)黙々と工作をし続けて、一個のモビールを完成してくれたことでした。途中、誰一人飽きることなく2時間を集中して楽しんでくれたのです。その様子を端から眺めていると、とても美しい時間だと感じました。思えば、子どもの頃は学校で工作の時間があるかもしれませんが、大人になるとなかなかそんな機会もありません。子どもと大人が夢中になって、時には協力しながら、手を動かす時間。それ以上に付け加えるものは何も無いと思いました。

子どもたちにとって、手を動かす時間がとても大切だということは、保育の世界ではよく言われます。脳が活性化されるのはもちろんですが、手は他の部位に比べて感度の高いセンサーで、使うことで感覚が養われるそうです。それは子どもだけでなく大人も同じだと思います。バーチャルなものも増えてきましたが、やはり実物のモノを触る感覚というのは、人間にとって大事なことだと思うのです。紙を使って気軽にできる工作は、それにうってつけです。2時間たっぷり工作に没頭する時間は、僕が思っていた以上に尊いものでした。ちなみに、マニュモビールズの“マニュ(Manu)”は「手」という意味。これからもワークショップの場では、できるだけ手を動かす時間を大事にしていけたらいいなと思いました。


