「見る」と「触る」

1月の中旬から2週間ほど、名古屋の無印良品さんにあるOpen MUJIというイベントスペースで展覧会を開催していました。初めての共同展で、同じ愛知県在住のイラストレーター・ワキタヨシコさんと一緒に行いました。ワキタさんとは初期の頃から一緒にモビールを作ったり、他にもたくさんの仕事でご一緒してきました。型染めという手法でイラストを描いていて、製作に「紙」を使っていることも共通点のひとつです。いつか一緒に展示会ができたらと密かに思っていたのですが、ようやく今年実現することができました。

テーマは二人の共通点である「紙」に決まりました。紙で作られたお互いの作品の展示の他に、それぞれの作品が生まれるまでの工程や、素材である紙そのものについてもパネルを交えてご紹介しました。

合同展『紙と紙展』の展示風景。
それぞれの作品の他に、素材である紙にもスポットを当てた展示になりました。

 

これまでの展示では、主に作品や商品の紹介がメインだったので、素材である紙にフォーカスしたのは今回が初の試みです。以前こちらのコラムでもご紹介した「紙の見本帳」(紙を銘柄ごとにまとめたもの)や、断裁される前の「全紙」と呼ばれる大きな紙の展示、紙に関する書籍など、普段身近にありすぎてあまり意識することのない紙という素材について、一般の方にも知っていただく良い機会になったと思います。コロナ禍で実際の紙に触れる機会が以前より減ってしまいましたが、紙の質感や風合いなどはデジタルでは表現できない部分かと思います。会期中たくさんの方が実際に紙を手に取り、触っている姿が印象的でした。以前ではあたりまえのことだったかもしれませんが、コロナ禍を経た今では、単純に「触る」という行為が何か特別なことのようにも思いました。

紙の見本帳も展示しました。
会期中たくさんの方が手に取り、触っていたのが印象的でした。

 

会期中は2日間、合同ワークショップも開催しました。「型染めでウサギのモビールを作ろう」と題し、今年の干支であるウサギをモチーフにして、前半はワキタさんによる型染めワークショップ、後半にモビール作りを行いました。「型染め」とは日本の伝統的な染色技法の一つで、和紙を切り抜いた「型紙」を使って模様を染める技法です。ワークショップではその簡易版として、型紙を使ってウサギのパーツに模様をつけていきました。ここでもたくさんの紙に実際に触れながら、絵画や工作を皆さんに楽しんでいただきました。

ワークショップの風景。
型染め体験とモビール作りを行い、様々な紙に触れていただきました。

 

そもそもは「紙」をテーマにした展示会だったのですが、終了して感じたのは紙を媒介にして、「触れる」という行為を取り戻すような展示だったように思いました。作品のみの展示の場合、「お手を触れないでください」と書かれたパネルが掲げられることが多いと思います。作品は「触る」よりも「見る」ものだからです。今回も二人の作品を並べたものであれば「見る」だけで終わっていたかもしれません。「紙」をテーマにして良かったと思うのは、実際に触ることができたこと、もっと言えば触りやすい素材だったということです。

デジタル技術の発展は、視覚的な疑似体験を可能にしたかもしれませんが、「触れる」という感覚を満たしてはくれません。モビールも基本的には「見る」ためのアイテムなので、これまで気づかなかったのですが、紙という素材に惹かれるのは、もしかするとそういった素材が持つ触れやすさの部分にあるのかもしれません。