職人技が光る理由

前回はモビールの素材についてのお話しでしたが、今回は製造工程についてのお話をしたいと思います。前回お伝えした紙を貼り合わせて作る製法は、簡単そうに見えて実は難しく、カットされた紙にボンドをつけて一枚ずつずれないように貼っていくのは職人技と言っても過言ではありません。いつでも正確に何個でも同じように、綺麗に貼り合わせていくのは至難の技なのです。ボンドとテーブルがあれば、場所はそれほど取らない作業なので、最初は内職業者さんにお願いしていました。多少器用な人であれば容易にできあがってくると思っていたのです。ですが、実際できあがってくるのは紙同士のズレがあったり、表面にボンドの跡が残っていたり、簡単に糸が抜けてしまったり、求めている品質とは大きく異なるものでした。「もしかして、これをいつでも同じように作れる人なんていないのではないだろうか?」と悩むこともありました。素材が決まり、製法も決まり、あとは量産体制を整えれば、ようやくプロダクトとして成立するというところで、この工程が最後の大きな壁だったのです。

初期の頃からモビールの貼り合わせ作業をしていただいている紀子さん
初期の頃からモビールの貼り合わせ作業をしていただいている紀子さん

そんな中、ある日福祉事業所の方と出会うことになりました。障害を持つ方の仕事を探されている中で、この貼り合わせ作業ができるのではないかとお声がけいただいたのです。実際、現場まで行き、作業の説明をして、何人かの人に取り組んでいただきました。するとそのうちの一人が驚くべき精確さで仕上げていることに気づきました。お願いした全てが美しく貼り合わされ、機械が作ったような精巧さでした。どなたが作ったのかをお聞きし、実際に本人に目の前で作業していただくと、思っていた通りにいつでも同じような精確さで貼り合わせることができたのです。全てをきっちり正確にしないと気が済まないというのが、その障害の一つの傾向ということでした。つまり、その作業に対して、とても秀でていたということなのです。何より嬉しかったのは、本人がとても楽しそうにその作業をしてくれているということでした。

福祉施設の風景。皆熱心に様々なお仕事に取り組まれています
福祉施設の風景。皆熱心に様々なお仕事に取り組まれています

福祉事業所で行われている作業は、割り箸の袋詰めなどの単調な作業が多いので、その中でモビールの貼り合わせは職人的な要素が大きく、労働する喜びにもつなげられたのかもしれません。また、多くの人ができないことを、自分はできるという自信にもつながったのかもしれません。それ以来、僕自身が障害を持つ方への意識が代わり、秀でた部分がたくさんあることに気づきました。多くの方がひたむきに真面目に仕事に取り組んでくれることは事業所の中にいってすぐに分かりました。今では、紙のカッティングの部分も福祉事業所で行っていただいております。

カッティングマシンのオペレーション作業も、障害をもつ方にお願いしています
カッティングマシンのオペレーション作業も、障害をもつ方にお願いしています

モビールは紙でできているがゆえに、その貼り合わせの部分のクオリティが低いと、一気に工作のように見えてしまいます。精巧な職人技のおかげで、見た目の美しさが保たれているのです。この優れた技術は本当にできる人が少ないのですが、障害がある人ない人にかかわらず、クオリティの基準を満たすことはもちろん、「本人が作業していて楽しいこと」を基準にお願いしています。ぜひ実物を見て、その背後にある職人技の輝きを感じていただけたら幸いです。